日本経済の真の課題 前半
【小幡績】 本当の問題は財政でもなくデフレでもない。これらの問題をこじらせる政策だ
気分は軽く 「アベノミクス」は、市場の過度の悲観論を払拭することに成功したが Issei Kato-REUTERS
*ニューストピックス「量的緩和後の日本経済」はこちら→
日本経済の真の問題は、財政問題でもデフレでもない。
この連載では、財政問題を何度も取り上げて来たが、それが問題でない、といまさら言うのも裏切り行為と思われるかもしれない。しかし、日本の真の問題は財政などという小さなところにはなく、もっと根本的な問題であるにも関わらず、核心の問題に取り組む前に、財政でゲームオーバーしてしまっては意味がない。そういう意味で、財政を解決できなければ、1次予選も突破できないようなもので、土俵にも上がれない。
そして、その小さな財政問題をごまかして逃げ切るために、インフレにしたり、日銀に国債を買わせたりすることで、小さな問題は、日本の金融市場、経済全体を揺るがす問題となるリスクを増大させたのだ。したがって、このようなリスクを増大する量的緩和は止めるべきだ。ただ、止め方には慎重にも慎重を期す必要がある。そして、財政問題は小さな問題なのだから、淡々とまじめに少しずつ解決していくしかない。経済成長で一挙解決は、そもそも不可能だし、危険だ。そして、それでは結局解決できない。支出を切り詰めること、それを淡々とやるしかないのだ。そして、国債市場を徐々に正常に戻していく。量的緩和がなくなり、新規国債の発行額も減らしていけば、実は、これは、処理できるし、逆に言えば、これ以外に、小さな財政問題から生じている大きな罠から脱出する方法はない。
同様にデフレも問題ではない。
なぜなら、デフレとは物価の継続的な下落のことを本来は指すが、それが誤用されて、需要不足の状態のこと、あるいは単に景気が悪い、ということを示すことになってしまった。言葉は本来は厳密に使うべきだ。この話をすると、いまさら何を言うか、そんな言葉遊びをしても無駄だと言うが、言葉を曖昧にして、経済を気分でごまかそうとしても無駄なのだ。
まず、物価の下落自体は問題でない。デフレを経済学的にきちんと問題視する人々は、物価の継続的な下落による、経済主体の悲観論の蔓延による、悪循環からの萎縮均衡を問題とする。いわゆるデフレスパイラルというのもこの一つの議論だが、デフレスパイラルというのは、日本の経済には当てはまらない。
インフレを起こしても消費は必ずしも増えない
物価が下がる、企業の収益が減る、企業が投資を減らす、給料を下げる、消費が減る、企業は価格を下げる、さらに収益が減る、企業が投資を減らし......という循環をもっともらしく説明するが、こんなことは実際には起きない。要は、人々は、将来の見通しをこれまでの経験と現在の状況から判断するのであって、一旦悲観的になれば、それは経済にすぐに織り込まれて、停滞する。これが萎縮均衡であり、スパイラル的に無限に悪化することもなく、今すぐに止めなければ日本が崩壊してしまうような危機でもない。