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連載「転機の日本経済」(2)

日本の財政問題とギリシャ破綻

2015年6月29日(月)18時21分

 そうなると、財政破綻したときの影響は、ギリシャの比ではない。国民への負担は果てしないものになる。国債の保有者は国内銀行、その預金者であるから、国民負担である。政府が身軽になれば、国民にその負担はおよび、国民は大きな損失を被るのである。増税で取られるか、貸した金を踏み倒されるかの差であり、いずれにせよ、国民がほぼ全額負担することになる。いざとなれば、海外に負担を移転させられるギリシャよりも、日本の財政問題が深刻であり、踏み倒すという最終手段が存在しないだけに、より国民にとっては負担の大きな問題なのだ。

 インフレによって、政府の借金の実質価値を目減りさせるということは、国民の債権の価値を目減りさせることであり、目に見えない借金踏み倒しに過ぎない。だから、負担はインフレという形で国民生活に及び民間経済は苦しくなる。

 つまり、財政問題とは、負担の押し付け合いに過ぎない。ギリシャは、その押し付けに失敗した。日本は失敗すれば、政府財政が破綻し、成功すれば,民間経済、国民生活が苦しくなる。それだけのことなのだ。

 それでも、日本に比べてギリシャが遙かに追い込まれている理由は、財政破綻を背景に銀行システムが破綻するリスクが高まっているからだ。今回も、政府が財政破綻するよりも、ギリシャの銀行システムが破綻することが国民生活、経済を破綻させることになる。だから、銀行封鎖をチプラス首相は行ったわけだが、これは当然国民の反発を招き、チプラス首相は、海外の債権者からも国内の有権者からも見捨てられ、自滅の道を確実にした。

 そして、銀行システムの破綻の背景には、ユーロ離脱のリスクがある。ギリシャが自ら離脱しなくとも、財政破綻をして、さらに欧州の債権国の言うことを聞かなければ、ECB(欧州中央銀行)にも見捨てられ、実質ユーロから離脱させられてしまうリスクがある。これこそが、経済の終わりである。一番重要なのは通貨、それを元に成立する銀行、そして、銀行に支えられる経済という構図になっているが、高々政府の借金の問題を経済の根本の通貨危機にしてしまったのが、チプラスの敗因なのである。

 一方、日本においては、銀行システムはほぼ盤石で、地方金融機関が衰退するという長期的な問題はあるが、システムのリスクはない。そして、自国通貨の円も問題はなく、単なる政府の大盤振る舞いによる借金の問題だけで、政府財政以外は日本は万全だった。ところが、アベノミクスのうちの異次元緩和により、円という通貨の価値を意図的に毀損させてしまい、さらにインフレでますます価値を喪失することを目指すと宣言しているから、これをとことこん本気で追求することが、これから行われるとすると、日本も本当の危機がやってくるのである。

 財政問題とは、政府が負担の先送りをしているだけの問題であり、深刻だが、限定的な問題だった。それが、通貨危機による金融危機、経済危機と発展するリスクに高まってしまったのは、量的緩和、異次元緩和なのである。そこからの脱出、出口戦略については、来週議論することとしたい。(小幡績・慶應義塾大学ビジネススクール准教授)

*連載第3回「ギリシャと日本の類似性」はこちら→

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