最新記事

テクノロジー

ロシアの脅威が生んだ電子大国エストニア

2015年4月16日(木)17時00分
エリーサーベト・ブラウ

 シリコンバレーの新興企業はインキュベーター(起業支援事業者)から初期資金を調達した後、ベンチャーキャピタルから何百万ドルもの投資を受けられるが、エストニアの起業家はクラウドファンディングや政府の助成金を頼りに事業を始める。彼らがアメリカとヨーロッパの大手ベンチャーキャピタルから資金を調達できるよう、政府系の起業支援機関が売り込みのノウハウを教えている。

 世界繁栄指数を発表しているシンクタンク、レガトゥム研究所(本部ロンドン)のハリエット・モルトビーによると、起業のコスト、法の支配など、起業に有利な環境整備では、エストニアはイギリスにかなわないという。「それ以上にエストニア人の起業を妨げる最大の障害は人々の認識だ」と、モルトビーは指摘する。「昨年の調査によると、自分の国には起業に適した環境があると答えたイギリス人は70%だったが、エストニア人は51%だった。イギリスと並ぶヨーロッパの新興企業の中心地になるには、エストニアはまず自己イメージを変えるべきだ」

 まだまだ課題はありそうだが、世界の先陣を切って行政サービスの電子化を進めてきたイルベス政権は、電子政府の特長を生かして世界中から起業家を募るという野心的な計画を進めている。エストニアを1度訪れただけで、電子IDカードを交付され、祖国に居ながらにして、エストニアで会社を設立し運営できる「電子住民」制度だ。政府は2025年までにバーチャル住民を1000万人に増やす計画で、希望者を募っている。

 すでにエストニア政府の文書はすべて電子化され、外国の大使館のサーバーにバックアップが保存されている。「書類のない世界は想像しにくだろうが、エストニアではそれが当たり前だ」と、エストニア政府の最高情報責任者タービ・コトカは説明する。「確かに、電子化することで、サイバー攻撃の脅威は大きくなる。しかし、われわれが常に意識しているのは暴力的な隣人の脅威のほうだ」

 たとえロシアに占領されても、電子政府が機能すれば、祖国を守れる――エストニアの先進的な取り組みは小国の賢い自衛策でもあるようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中