最新記事

ブラジル

リオのスラムに群がる貧困ツアーの功罪

2013年11月29日(金)15時18分
カーラ・ザブラドフスキ

収益の一部は支援活動に

 14年のサッカーW杯と16年のリオ五輪開催を控えてブラジルを訪れる観光客は大幅に増える見込みで、リオデジャネイロの貧困ツアーも急増しそうだ。こうしたツアーをめぐっては、ひと握りの人間だけが儲けてスラム住民のことなどお構いなしだ、と批判が絶えない。観光客からサファリの野生動物か何かのようにじろじろ見られるのは嫌だと、あるファベーラの住民代表は言う。

 その一方で貧困ツアーは啓発にも役立ち、住民の生活は侵害されないと弁護する声もある。「いつも言うんだが(同市有数の高級住宅地)レブロンを歩いたって裕福な住民が嫌がるわけじゃないだろう」と、団体ツアーのフランス人ガイド、アクセルは言う。ファベーラのほとんどは2年前は足を踏み入れることができないくらい危険だったが、W杯と五輪の開催を前に多くのファベーラが政府によって「制圧」されたという。

「おばあさんが居間で独り死んでいく、なんてことはない」と、アクセルがブラジル中間層のファベーラ観に反論する一幕もあった。ツアーではファベーラの子供のための課外活動も見学。活動資金の一部は、ツアーの収益で賄われているという。

 ファベーラを後にして、バンはイパネマやコパカバーナのホテルが立ち並ぶビーチに戻ってくる。ツアー中に撮った写真をiPhoneで眺めていた中国人観光客が顔を上げ、青々としたゴルフコースを見て笑顔になる。「ここでプレーしたいな」。彼にとってファベーラは既にはるか遠い世界の話だ。

[2013年11月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国が米に対話呼びかけ、追加関税発動で

ビジネス

仏クレディ・アグリコル、第4四半期は27%増益 予

ビジネス

ノボノルディスク、25年売上高伸び鈍化を予想 「ウ

ビジネス

焦点:トランプ関税で守りに入る投資家、全面貿易戦争
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 2
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 5
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 6
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 7
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    DeepSeekが「本当に大事件」である3つの理由...中国…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中