東南アジアに迫るバブル崩壊説
インフラ投資で逃げ切り
ただしルピアを防衛できれば、だ。急激な通貨下落はインフレを生み、資産は売られて価格は下落する。投資家は慌てて資金を引き揚げ、それによってまた価格が下がり、損失が雪だるま式に膨らみかねない。
政治状況も影を落としている。インドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領の任期は14年に終わるが、外国人投資家は退任後の政情が安定するまで投資を控える可能性がある。
フィリピンでも、改革の中心人物であるベニグノ3世・アキノ大統領の任期満了が16年に迫っている。だとすれば同じような不安が待ち受けているかもしれない。
メノンによれば同国の経済は好調で、不動産と株式市場のバブルで痛手を負うのは個人投資家に限られる。「フィリピンは東南アジアで何十年も劣等生だったが、やっと光が当たった」と彼は言う。「統治と徴税の飛躍的な向上でようやく胸を張れるようになった。ファンダメンタルズは良好で、さらに改善されている」
一方、ベトナムの前途は暗い。銀行は過大な負債を抱えて破綻の危機にあるものの、政府には救済する力がない。「ベトナムは長い間、調整局面で苦心している」と、ビスワスは言う。ただ幸運にもベトナムのGDPはASEAN(東南アジア諸国連合)全体の6%。危機に陥っても他国には打撃をもたらすことはない。
東南アジアには、危機回避は可能と思わせる方策がほかにもある。輸出減少を埋め合わせるための巨額のインフラ投資だ。
タイとマレーシアは既に交通網の整備に数十億ドルを投じ、インドネシアとフィリピンもこれに続こうとしている。インフラが整えば生産性が飛躍的に向上し、地域の経済成長を常に妨げている障害のいくつかは取り除かれるだろう。
現在のところASEANの今年の経済成長は、構造的な不安があっても約5%と予想されている。「これらの国々は外需への依存を減らそうとしている。意図的な転換だ」と、メノンは言う。
中国、ヨーロッパ、日本、アメリカからの将来の需要は未知数なので、過剰な借金をしない限り内需へのシフトは賢い選択肢だろう。
東南アジアはそうした構造転換がなされるまで、他地域の経済動向にある程度、振り回されるだろう。外部環境に変化がなければ、この地域の調整は緩やかに行われるはずだが、問題は他地域で何が起こるかだ。ユーロ危機再燃などの一大事が起きれば、それが引き金になって深刻な経済悪化に見舞われる可能性は否定できない。
東南アジア諸国の政府と中央銀行は今後、賢明な金融政策と財政政策で自国経済を立て直そうとするだろう。だが同時に、ヨーロッパと中国の動向も気になって仕方がないはずだ。東南アジアでバブル崩壊があるとすれば、いちばん引き金になりそうなのがその二者だからだ。
[2013年7月16日号掲載]