最新記事

雇用

「低賃金時代はもう終わる」

途上国の賃金上昇や搾取批判で低賃金戦略の限界が見え始めるなか、「メイド・イン・アメリカ」を貫く型破りCEOの新発想

2013年6月24日(月)16時30分
ダニエル・グロス

外注せず チャーニーCEO率いるアメリカンアパレルの製品は、ほぼすべてロサンゼルスの工場で造られる Lucas Jackson-Reuters

「安い労働力の時代は終わろうとしている」と、カジュアル衣料のアメリカンアパレルの創業者であるドブ・チャーニーCEOは言う。

 繊維・衣料業界は長い間、安い労働力を追い求めてきた。19世紀のイングランドやアメリカのニューイングランドに始まり、20世紀前半のマンハッタンやサウスカロライナ、20世紀後半のフィリピンや中国。現在では、バングラデシュやアフリカが低賃金戦略の最前線となっている。

 しかしどんな戦略にも限界はある。バングラデシュで起きたビル崩壊事故は、行き過ぎた低賃金戦略の象徴かもしれない。今年4月、縫製工場の入っていたビルが崩壊。死者は1000人を超え、そのほとんどが極端な低賃金で働いていた。今回の惨事を機に、反発と自己反省が広がっている。

 年商6億ドル規模のアメリカンアパレルは、5月1日時点でアメリカなど20カ国に248店舗を有し、他社ブランドの衣料も製造している。その経営者であるチャーニーは、衣料品ビジネスも生産委託先が直面しているプレッシャーも理解している。

 衣料品メーカーは厳しい競争にさらされている。納期に間に合わなければ製品も引き取ってもらえない。「たとえバングラデシュだろうと、予定どおり商品を船積みできなければ万事休す。倒産だ。だから何としても出荷しようとする」。それが手抜きや、従業員や設備の酷使を助長するとチャーニーは言う。

 今、ほとんどの企業は生産を海外の生産委託先やその下請けに外注し、最も安い労働力を求めて世界中を探し回っている。

 しかしチャーニーは違う。フォードのような20世紀初頭の名門企業に倣って、製造・販売から広告や販促まで自社で行う「垂直統合」戦略を続けてきた。アメリカンアパレルが販売する衣料品はほぼすべて、ロサンゼルスの自社工場で製造しているのだ。

従業員に相場より高い賃金を払う理由

 しかもフォードの創業者ヘンリー・フォードがしたように、相場より高い賃金を払おうと努めている。アメリカンアパレルの公式サイトによれば、同社の平均的な熟練労働者の年収は約2万5000ドル。時給にして12ドルで、アメリカの法定最低賃金の2倍近い。

 交通費や昼食代の補助、工場内での無料マッサージ、自転車レンタル、低コストの医療保険、診療所など福利厚生も充実。自社の部品調達網をオープンにしたがらない企業もあるが、アメリカンアパレルの場合はオンラインで工場見学ができる。

 チャーニーは何かとお騒がせなCEOだ。11年4月のニューヨーク・タイムズ紙に「ファッション誌の女性記者の前でマスターベーションをした」と書かれ、複数のセクハラ訴訟も起こされている(ほとんどが棄却もしくは和解している)。

 お世辞にも行儀がいいとは言えないが、言っていることは大まじめだ。果てしない低賃金競争は、アパレル企業にとって大きな問題になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英企業信頼感、1月は1年ぶり低水準 事業見通しは改

ビジネス

基調物価の2%上昇に向け、緩和的な金融環境を維持=

ワールド

米運輸長官、連邦航空局の改革表明 旅客機・ヘリ衝突

ビジネス

コマツの4ー12月期、営業益2.8%増 建機販売減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中