日本企業は昔のパンパースと同じ間違いを犯している
──それは、あなたもP&Gで務めたグローバル・マーケティング責任者とかCMO(最高マーケティング責任者)のことか。
マーケティング部門の責任者は必ず必要だ。多くの日本企業はマーケティングを財務や技術開発のような専門として見ていな い。販売促進活動の一環のように思っている。それが問題だ。販売が目指すのは、今日、明日、来月などの短期でたくさん売り上げること。マーケティングは長期的に需要を創造するもの。製品開発を根本から変えるようなもの。マーケティングは消費者を理解し、企業に長期的な勝利をもたらすものだ。
── 具体的には?
企業のビジネスの背景にある理想を定義づけ、それを広く全社員と分かち合い、一丸となってその理想を追い求め、各部署で理想を具体化するための行動に落とし込む。これがマーケティングで、この一連のプロセスを完結させるにはリーダーがいなければならないし、強力なマーケティング部隊がなければ実現は難しいだろう。
とはいえ、誤解しないでもらいたい。これはマーケティングについての本ではない。企業の哲学、成長へのアプローチに関する本、企業を率いるリーダーすべてにとっての本だ。私はP&Gにいた25年のうち18年間はマーケティング以外のさまざまな仕事をしていた。この本はいかにして持続的な成長を可能にするかについてのものだ。
──急速に成長を遂げるビジネスを動かしているのは「ビジネス・アーティスト」だとあなたは言う。ビジネス・アーティストとは何か。
成長ブランドの創造には人々を感動させ魅了するブランド理念が欠かせないが、それはビジネスマンよりアーティストの仕事だ。フランスの高級ブランド企業、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)のベルナール・アルノーCEO兼会長はこう言っている。「スター・ブランドは、芸術的で創造的な精神からしか生まれない」
実際、偉大な製品、勢いのある組織、消費者ニーズのいち早い発掘、差別化の上手さなどで優れた企業を思い起こせば、必ずそこにはビジネス・アーティストがいる。スティー ブ・ジョブズはもちろん、その最たる例だ。彼の場合、ビジネス運営面はCOO(最高執行責任者)だったティム・クックが担っていた。一人で二役を兼ねられるリーダーもいるが、別々でもとにかく権限をもつアーティストがいることが重要だ。LVMHのアルノーは、傘下の企業のすべてで、ビジネス運営者の役割とアーティストの役割を別々の人物に任せている。
成長しない会社というのは戦術やオペレーションのことばかり考えていて、ビジネスの創造的で芸術的な側面のことをやっていない。脳の片側、論理面しか使っていないCEOが多い。そしてもう片方の感性面には苦手意識をもっている。だが組織を率いるリーダーは本来、感情的に成熟していなければならない。
そういうリーダーが少なすぎる。ビジネススクールはビジネス運営者ばかりを量産しているが、もっとアーティストが必要だ。