最新記事

経営戦略

日本企業は昔のパンパースと同じ間違いを犯している

2013年1月22日(火)16時40分
千葉香代子(本誌記者)

──ブランド理念というのは具体的にどういうものか。

  理念はブランドに生命を吹き込むものだ。その点、15年前のパンパースは死んだも同然だった。紙オムツのパイオニアだったにも関わらず、後発企業に市場を奪われウォール街からはP&Gのお荷物扱いまでされるようになった。なぜなら、当時のパンパースはひたすら、吸水性がよくすぐ乾くという利点だけを追い求めていたからだ。品質や機能に重きを置きすぎるというのは、今の日本企業にも共通する問題だろう。いいものは作る。だが他社製品と大して変わらない。

 パンパースに足りなかったのは、いかに人々をハッピーにして喜ばせるか、驚かせるか、人生を素晴らしいものにするか、という高次の理念だった。母親たちがいつも心配しているのは、オムツが他社製品より速く乾くかどうかではなく、赤ちゃんが幸せか、ちゃんと育っているか、食べているか、ということだ。

 だったらオムツのことは脇へ置き、赤ちゃんを育てる母親の友達になることをブランド理念にしようと考えた。すると、赤ちゃんの発達段階に合わせたオムツを開発したり、ウェブサイトで子育てについての質問に答えるサービスを立ち上げるなどの発想が生まれてきた。これまで乾きやすいオムツを作って売るだけの仕事に物足りなさを感じていた社員も一丸となって母親たちのことを考え始めた。次第に母親たちにも支持してもらえるようになり、売上は3倍になり、利益も増えた。

──当たり前のようだが、顧客不在の製品開発になってはいけない。

 顧客不在で成長している企業は思いつかない。偉大な企業はみな顧客中心主義だ。顧客サービスでナンバーワンの企業の例を挙げよう。アマゾン・ドットコムに買収されたシューズ通販会社のザッポスだ。彼らの理念は、幸せを配達すること。従業員は顧客と長電話したほうが評価が高い。顧客のほうも、一度電話すればザッポスが大好きになる。靴のサイズがわからなければ3サイズ送る。商品は他の店と大して変わらないのに、顧客の忠誠心は極めて高い。

──顧客サービスはコストが高く、商品の値段は高くできない。どうやって利益を出すのか。

  価格は必ずしも安くなくてはならないわけではない。アップルはほかのコンピュータの3倍高い。ルイ・ヴィトンのバッグも。ステンゲル50のほとんどはプレミアム価格で製品やサービスを売っている。それだけの付加価値があると思えば高いお金も払う。どこに価値があるのかを理解しなければならない。大事なのは、消費者の気持ちに共感できることだ。

──アメリカの大統領選で再選されたオバマ大統領と敗北したロムニー候補にも言えることだとブログに書いていた。

 そうだ。オバマには高い理念があり、ロムニーにはなかった。オバマは中間所得層を豊かにするために働くと言った。ロムニーは税金と財政支出を減らすと言った。これは個別の政策であって理念ではない。オバマの主張には人々の心に訴えるものがあった。理念の重要さは企業にとっても同じだ。理念があれば優れた人材も集まるし、従業員の士気も上がるし、使命感も生まれる。ロムニーには人を感動させるところが皆無だった。

──若いエグゼクティブに望むことは。

 好奇心。勇気。決断するのに恐れてはいけない。日本にはそれが欠けているようだ。目立ちたがらない。好きな仕事ほどよくできる。だから自分の好きな仕事を見つけることがとても大事だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁

ビジネス

インドCPI、11月は過去最低から+0.71%に加

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は予想下回る3900億元

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中