キンドルはいつかタダになる
アマゾンが賢いのは、キンドル版の電子書籍をアップルのiPhoneやiPad、アンドロイド端末でも読めるようにしていること。その一方で、ほかの電子書店版の電子書籍はキンドルで読むことができない。
その結果、キンドルを無償で配布された人は、キンドル版の電子書籍をアマゾンから買う可能性が高い。実際はiPadで読む機会が多いとしても、ただでもらったキンドルでも読めるほうが得だと考えるからだ。アマゾンは1台の端末を無料で配るのと引き換えに、その人を先々まで自社の電子書籍書店の顧客として囲い込める。
ただし採算を考えた場合、キンドルを無償で配ることなどできるのか。現時点で、この問いの答えはアマゾン社内の人間にしか分からない。
私の取材対象企業の中で、アマゾンほど内情が不透明な企業はない。アマゾンの秘密主義は、あのアップル以上に徹底している。キンドルの累計販売台数やキンドル部門の売上高も公表されていない。
カギは商品配送コスト
それでも、ある程度の推測はできる。第1に、キンドルで用いられている部品の原価は下落し続けている。昨年の時点で、最廉価版キンドルを作るのに掛かるコストは約85ドルだったと思われる。それが今年は、60ドル程度まで下がっているはずだ。いずれさらにコストが下がれば、いよいよ無償配布が可能という判断が下されるだろう。
コストがどこまで下がればゴーサインが出るのか。これは、プライム会員がどれくらい買い物をするとアマゾンが期待するかによって変わってくる。
証券会社パイパー・ジャフリーのアナリスト、ジーン・マンスターによれば、プライム会員に登録すると、その人のアマゾンでの年間購入額が初年度で2倍に増えるという。プライム会員は早く安く配送してもらえるので、オンライン上で買い物をするときにまずアマゾンをチェックするようになるからだ。
その半面、プライム会員との取引は一般利用者よりコストが掛かる。無料配送のコストは馬鹿にならないのだ。マンスターの試算によれば、アマゾンはプライム会員1人につき、年間で11ドルの赤字を出している可能性もあるという。
しかしアマゾンは目下、全米に続々と新しい配送センターを建設している。それに伴い、会社全体の配送コストの増加率が目を見張るほど縮小し始めた。12年上半期の全社の配送コストは、11年の同時期に比べて33%増。11年上半期の数字は、対前年比で82%増だった。
ここに、プライム会員向けにキンドルが無償配布されるようになる理由が潜んでいる。配送コストが減れば、プライム会員1人当たりの利益が増える。そうなれば、アマゾンはますますプライム会員を増やしたくなる。そこで、勧誘の手段としてキンドル無償配布を打ち出そうと考える、というわけだ。
具体的な時期はまだ分からないが、いつかそのときが来ることは間違いない。最後にあらためて宣言しておこう──キンドルは無料になる。
© 2012, Slate
[2012年9月19日号掲載]