EUがひた隠すギリシャ危機のプランB
EUの追加支援の条件となるギリシャの緊縮財政案の採決が行われるが、EUが黙して語らない否決の場合の代替策とは
放漫のツケ EUの支援と引き換えの緊縮財政に反対するギリシャ人(6月28日、アテネ) Yannis Behrakis-Reuters
欧州連合(EU)からの追加支援の条件となるギリシャの緊縮財政案の審議が26日からギリシャ議会で行われている。新たな歳出削減などを盛り込んだこの法案を、もしもギリシャが否決したらどうなるのだろうか。
「代替のプランBがあるなどと誰にも思わせてはならない」と、ルクセンブルク首相でユーロ圏財務相会合の議長として統一通貨ユーロに参加する17カ国の会合を取り仕切るジャンクロード・ユンケルは言った。「そして実際、プランBは存在しない」。ギリシャ問題を話し合うために先週ブリュッセルで開催されたEU首脳会議の直後のことだ。
EUはギリシャのデフォルトを回避するために追加の救済策を実行する用意があるが、ギリシャ議会の採決待ちの状態だ。議会は29日、前提条件としてEUから求められた400億ドル規模の歳出削減と増税について採決しなければならない。ギリシャ議会が緊縮財政案を否決するようなことになった場合、今のところ代替案はいっさい残されていない、ギリシャはデフォルト(債務不履行)に陥るしかないと、EUは主張する。ブリュッセルではプランBについて話すことはタブーになっているのだ。
だが最悪の場合、ユーロやEUそのものの存在すら危うくなるという今の状況の中、EUが先のプランを考えていないことなど到底ありえない。だとすると、EUの「代替案なし」ははったりだろうか。
ギリシャはドラクマに戻るべき
シンクタンク「ヨーロッパ政策センター」のアナリスト、ジャニス・エマヌイリディスは、口先だけの問題ではないという。EUと各国リーダーたちは見事なまでに「プランBは存在せず」という筋書きに固執しているが、エマヌイリディスは「どんな場合でも、市場で起こりうるあらゆる事態に備えておくべきだ」と言う。29日にギリシャで何が起こるにせよ、EUは独自に代替案を用意しておく必要があると、彼は考えている。
理想を言えば、EUは改革案を策定すべきだと彼は言う。その中には「ユーロ債の導入や欧州財務省の創設、税制や社会制度で域内の政策を統一すること、EU予算を十分に拡大すること」が含まれるという。
それはいずれ、「1つの国家に匹敵するような経済・政治連合の誕生につながる。実現すればユーロ圏の危機を解決できるだけでなく、世界の発展においてヨーロッパが主導的役割を発揮するという戦略上の目標も達成できる」と彼は言う。
一方、経済アナリストで統一通貨ユーロに批判的なダニエル・ゲゲンは、ユーロを離脱する国が出てくるあり得るということをEUは受け入れるべきだと言う。ギリシャは当然そのケースになる。「(ギリシャの通貨)ドラクマに戻るべきだ」と、ゲゲンはギリシャ債務の再構築を提案する。
ゲゲンの言う「大きな懸念」は、債務危機がこのまま拡大を続けること。「ポルトガルにも既に問題が発生し、アイルランドやスペイン経済にも危険が潜んでいる」と彼は言う。「大変危ない状況だ」
ゲゲンの提案で問題なのは、これまでにもギリシャのユーロ離脱は何度か言われてきたものの、今のところユーロ離脱(あるいは追放)の仕組みそのものが存在しないことだ。あまりに繊細な問題なため、欧州中央銀行(ECB)広報官のウィリアム・レリベルドはこの問題について語ることを拒否した。ユーロ圏の解体について質問されても「ノーコメント」と繰り返している。