マイクロソフトが挑む医療大革命
ソフトウエア開発で医療サービスのオンライン共有を実現できるか
医療サービスの改革問題は、考えれば考えるほど絶望的な気分になる。しかし絶望的だからこそ、IT実業家のピーター・ニューパート(54)は奮い立った。
「とてつもない難題だ」と、ニューパートは言う。「妻からはいつも『もっと簡単にできる仕事はたくさんあるのに』と言われる。しかし、私には難題に挑戦したがる遺伝子が組み込まれているんだ」
マイクロソフトの重役からオンライン薬局ドラッグストア・ドットコムのCEO(最高経営責任者)に転身して大金持ちになったニューパートは05年、医療機関向けソフトウエア開発のため古巣に戻った。現在はマイクロソフト傘下のヘルス・ソリューションズ・グループで800人の従業員を動かし、全米の病院と取引している。
簡単に説明すると、ニューパートの改革案は最新のソフトウエアで医療システムを効率化し、患者に低コストでより良いサービスを提供するというもの。幼い子供のいる親や、頻繁に病院に通う世代にとってこうした改革はありがたい試みだが、現実には医療記録の管理はまだ煩雑で、ようやくデジタル化が始まったばかりだ。
7000曲の音楽データは簡単に管理できて、なぜ子供の予防接種の記録が把握できないのか。銀行の取引も旅行の手配もオンラインで済むのに、病院の事務処理は50年前と変わらない。情報がデジタル化されていても、病院間でデータを共有する例は多くない。
けがをして救急治療室に運ばれた患者に、医者は「破傷風の予防接種はいつ受けましたか?」と聞く。しかし、大抵は覚えていないし、調べる方法も分からない。これはまだ単純な例だ。
もし救急患者が糖尿病を患っていて、複数の医師や栄養士や療法士にかかっていたら? 医師も療法士もカルテは付けているが、そのデータを共有していない。