最新記事

テクノロジー

マイクロソフトが挑む医療大革命

2010年8月24日(火)14時46分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

患者記録の共有を阻む壁

 「基本的に医療は情報管理ビジネスだ」と語るニューパートは、ドラッグストア・ドットコム時代の98~04年の間に、大統領情報諮問委員会のメンバーとして医療問題小委員会の委員長も務めた。「アメリカでは毎年、9万8000人が予防可能なミスで命を落とす。医療業界は一度、根本からつくり直さなければならない」

 しかし、問題はあまりにも大きい。改革に取り組めるのは莫大な資金力を持つ企業だけだと、ニューパートは考えた。「必要なのはマイクロソフトのような企業だ。業界を揺るがすには、あれくらいの規模と粘り強さがないと」

 これまでにヘルス・ソリューションズ・グループは2つの主力商品を開発した。「アマルガ」は病院を含む医療機関がさまざまな情報源の患者情報を統合できるソフトウエア。「ヘルスボールト」は患者の医療記録をまとめて保管するオンラインシステムだ。

 ニューヨーク・プレズビテリアン医療システムやテキサス州のクック小児医療システムなど、20の病院グループが既にアマルガを導入。クックではアマルガを使って2つの病院、手術センター、医師、在宅医療会社のシステムを統合し、患者の情報を共有している。ニューヨーク・プレズビテリアン病院では約9000人の患者がヘルスボールトに登録した。

 とはいえ、情報の悪用や漏洩を心配して、巨大企業に個人情報を預けたがらない人は多い。マイクロソフトはヘルスボールトの登録者数を明かしていないし、ニューパートも先は長いと認めている。

 それでもマイクロソフトが改革に成功し、無数の病院をつなぐ医療の「OS(基本ソフト)」が誕生したら? 将来的に、医療はウィンドウズをしのぐビッグビジネスになるかもしれない。

 マイクロソフトはこの10年、アップルとグーグルに押されて苦戦してきたが、同社のソフトウエア技術者が医療を改革できないとは限らない。ニューパートらの取り組みが数十億謖規模のビジネスに成長すれば、病院通いはずっと楽になるだろう。       

[2010年7月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

香港上場の本土系不動産株が急伸、大手デベロッパーの

ビジネス

英住宅価格、6月は前月比+0.2% 高金利がなお圧

ビジネス

ECB次回利下げ決定は比較的容易、ベルギー中銀総裁

ワールド

アングル:インド猛暑で生鮮食品の冷蔵に課題、露天商
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVの実力
特集:中国EVの実力
2024年7月 9日号(7/ 2発売)

欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」のリアルな現在地

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 2
    能登半島地震から半年、メディアが伝えない被災者たちの悲痛な本音と非情な現実
  • 3
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」...滑空爆弾の「超低空」発射で爆撃成功する映像
  • 4
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド…
  • 5
    大統領選討論会で大惨事を演じたバイデンを、民主党…
  • 6
    中国のロケット部品が村落に直撃...SNSで緊迫の瞬間…
  • 7
    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…
  • 8
    キャサリン妃は「ロイヤルウェディング」で何を着た…
  • 9
    自宅で絶叫...ウガンダから帰国した旅行者がはるばる…
  • 10
    バイデン大統領の討論会「大失敗」は側近の判断ミス
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 3
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地...2枚の衛星画像が示す「シャヘド136」発射拠点の被害規模
  • 4
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 5
    ミラノ五輪狙う韓国女子フィギュアのイ・ヘイン、セク…
  • 6
    ガチ中華ってホントに美味しいの? 中国人の私はオス…
  • 7
    「大丈夫」...アン王女の容態について、夫ローレンス…
  • 8
    キャサリン妃は「ロイヤルウェディング」で何を着た…
  • 9
    衛星画像で発見された米海軍の極秘潜水艇「マンタレ…
  • 10
    貨物コンテナを蜂の巣のように改造した自爆ドローン…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に
  • 3
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 4
    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…
  • 5
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 6
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 7
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…
  • 8
    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…
  • 9
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 10
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中