マイクロソフトが挑む医療大革命
患者記録の共有を阻む壁
「基本的に医療は情報管理ビジネスだ」と語るニューパートは、ドラッグストア・ドットコム時代の98~04年の間に、大統領情報諮問委員会のメンバーとして医療問題小委員会の委員長も務めた。「アメリカでは毎年、9万8000人が予防可能なミスで命を落とす。医療業界は一度、根本からつくり直さなければならない」
しかし、問題はあまりにも大きい。改革に取り組めるのは莫大な資金力を持つ企業だけだと、ニューパートは考えた。「必要なのはマイクロソフトのような企業だ。業界を揺るがすには、あれくらいの規模と粘り強さがないと」
これまでにヘルス・ソリューションズ・グループは2つの主力商品を開発した。「アマルガ」は病院を含む医療機関がさまざまな情報源の患者情報を統合できるソフトウエア。「ヘルスボールト」は患者の医療記録をまとめて保管するオンラインシステムだ。
ニューヨーク・プレズビテリアン医療システムやテキサス州のクック小児医療システムなど、20の病院グループが既にアマルガを導入。クックではアマルガを使って2つの病院、手術センター、医師、在宅医療会社のシステムを統合し、患者の情報を共有している。ニューヨーク・プレズビテリアン病院では約9000人の患者がヘルスボールトに登録した。
とはいえ、情報の悪用や漏洩を心配して、巨大企業に個人情報を預けたがらない人は多い。マイクロソフトはヘルスボールトの登録者数を明かしていないし、ニューパートも先は長いと認めている。
それでもマイクロソフトが改革に成功し、無数の病院をつなぐ医療の「OS(基本ソフト)」が誕生したら? 将来的に、医療はウィンドウズをしのぐビッグビジネスになるかもしれない。
マイクロソフトはこの10年、アップルとグーグルに押されて苦戦してきたが、同社のソフトウエア技術者が医療を改革できないとは限らない。ニューパートらの取り組みが数十億謖規模のビジネスに成長すれば、病院通いはずっと楽になるだろう。
[2010年7月28日号掲載]