「よそ者」BPを襲う偏見の波
金融危機のときには、世界の巨大銀行は公的資金の注入や融資の政府保証を受けるため本国に駆け戻った。アメリカの不良資産救済プログラム(TARP)は、ドイツ銀行やフランスのソシエテ・ジェネラルには適用されなかった。
政治がグローバル企業を本国回帰に追いやる面もある。オバマと政権幹部たちは時々、BPを「ブリティッシュ・ペトロリアム(英国石油)」と呼んだ。原油流出への怒りと責任追及の矛先をイギリスに向けるためだ、と一部の専門家は言う。
オバマ政権が会談前に懸念したのは、BPの支払い余力を疑問視する観測が日増しに強くなっていたことだ。原油回収と補償の費用すべてを負担するというBPの口約束だけではもはや不十分だった。また、連邦法に定める原油流出事故の責任上限額7500万ドルを超える補償をBPに約束させる必要もあった。
ロンドン市長のボリス・ジョンソンは「アメリカに充満する反英的な言説」を憂い、「イギリスの偉大な企業に対する執拗なバッシング」にいら立ちをあらわにした(今はまさにそのBPの「偉大さ」が問われていると思うが)。
イギリスのアナリストたちは、200億ドルの補償原資調達の一環として年内の配当を見送るBPの決定が、イギリスの投資家に著しく不公平な損害をもたらすと懸念する。年金などを通じた間接投資も含めると、BP株はイギリスで最も広く保有されている銘柄だ。
だが、もし米石油大手エクソンモービルがイギリスの海で原油流出事故を起こし、ドーバー海峡を茶色く染めたとしたら、自制心を誇るイギリスといえどもやはり黙っていられないのではないか。
イギリスなまりも耳障り
もっとも、外国企業がよそ者扱いされる最大の原因は、政治よりコミュニケーションだ。危機が起きると企業は対応を本社に一元化したがると、ニューヨーク大学経営大学院で危機管理コミュニケーションを教えるアービン・シェンクラーは言う。
最近のトヨタ自動車の大量リコール(回収・無償修理)もそうだが、現地の習慣や文化への配慮を欠いた広報で傷口を広げてしまうことが少なくない。「危機の際の情報の流し方やデリケートな問題に関するコミュニケーションの管理に関して構造的な問題がある」と、シェンクラーは言う。
その結果、外国の企業幹部はしばしば間違いを犯し、失言を吐いてしまう。16日、オバマとの会談を終えて出てきたBPのスウェーデン人会長カールヘンリック・スバンベリは米国民に向かって、BPは「下々の人々(スモール・ピープル)」(!)を気に掛けていると請け合った。
17日に米下院エネルギー・商業委員会の公聴会に初めて出席したBPのトニー・ヘイワードCEOも浮いていた。アメリカ南部なまりの英語が支配的な同委員会で、ヘイワードが話すイギリスなまりの英語は不快な金属音のようだった。計算された言葉の選び方や声の調子、感情に流されない冷静さも、実にイギリス的だ。
事故発生当初は、メキシコ湾の海の大きさに比べれば流出した原油の量など大したことはないと言ったり、自分の生活を取り戻したいと発言するなど軽薄な失言を連発。本社から遠く離れた場所の汚染など本気で気に掛けていない証拠と思われた。
BPは数年前、BPという社名は「ビヨンド・ペトロリアム(石油の先へ)」の略だという広告キャンペーンを行った。今のBPは、「パロキアリズム(本国根性)」も超えられずにいる。
[2010年6月30日号掲載]