ジョブズ流、正しいミスの認め方
iPhone4の欠陥をめぐる会見を「成功」に導いた7つのスピーチテクニックとは
欠陥商品? ジョブズは謝罪することなく、iPhone4の不具合を認めるという綱渡りをしてみせた Paul Hackett-Reuters
それは、誰にでも起こることだ。ミスをして人を傷つけたり、周囲に不便を強いたりする。相手は戸惑うこともあれば、怒りを爆発させることもある。
そんなとき、過ちを認め、失敗を取り戻すために手を尽くして前に進むのが「大人」の対応だ。
数々の成功を積み重ねてきた企業経営者でさえ、失敗と無縁ではない。そう、あのスティーブ・ジョブズであっても。
アップルの新製品iPhone4のアンテナの不具合をめぐって7月16日に行われたジョブズの記者会見が注目を浴びた本当の理由も、まさにそこにあった。
iPhone4の持ち方が悪いと通話が切れてしまうというアンテナの欠陥疑惑は、アップルの必死の火消し工作にも関わらず、この一カ月ほど連日、大々的に報じられてきた。これは意欲的な発明について回る副産物であり、ありふれた問題だ、メキシコ湾の石油流出事故のようなスキャンダルではないのに、メディアは騒ぎ過ぎだ──。アップルはそんなPRをして騒ぎを収めようとしたが、無駄だった。
その結果、ジョブズの会見は、文化現象にもなった成功企業が失敗にどう対処するかを示す最高のケーススタディーとなった。私としては、ジョブズに高得点をつけたい。一部の課題を除けば、彼のプレゼンテーションは見事だった。ジョブズのスピーチテクニックを細かく見ていこう。
■理由を説明する前にミスを認める
会見の冒頭、ジョブズはこう切り出した。「われわれは完璧ではない。電話も完璧ではない。私たちもあなた方もそのことはわかっている。それでも私たちは、すべてのユーザーをハッピーにしたい」
簡潔で優しさにあふれ、相手の怒りを静めるのに効果的な表現だ。
■事実を率直に認めつつ、率直になりすぎない
ジョブズは会見のせりふを注意深く練り上げることで、謝罪をすることなく、アップルのミスを認めるという綱渡りを成功させた。企業のトップが公に謝罪をすると、株主に訴えられる恐れがある。質疑応答で「投資家に謝罪するか」という質問が出たが、ジョブズは拒んだ。
■論点をすり替える
問題点について語る際に、ジョブズはまずiPhone4の優れた点を挙げた。確かに宣伝くさかったが、簡潔な表現のおかげで必死で自画自賛しているようには聞こえなかった。
次いで、スマートフォンにはこの手のアンテナの不具合は付き物だという話を、ブラックベリー・ボールド9700や台湾のHTCのデロイトエリスの例を挙げて説明した。「スマートフォンの世界では日常的なことだ」と、ジョブズは言った。「電話は完璧じゃない」
この釈明によって、アンテナ問題は突如として、アップルではなく業界全体の課題にすり替わった。非常に巧妙なやり方だ。
■十分な解決策を提示する(ただし気前がよすぎるのもダメ)
ジョブズは自分の主張を存分に訴えた後で、対応策を提示した。iPhone4のすべてのユーザーに、手がアンテナに触れるのを防ぐケースを無償で配布し、それでも不満な人には返品手数料なしで全額払い戻しに応じるというのだ。
一部で予測されていたリコール(回収・無償修理)ではなかったが(今回の問題の一部がソフトウエアの不具合であることを考えれば、リコールの可能性は低かった)、ユーザーの怒りを和らげるには十分、寛大な対応だ。