ジョブズ流、正しいミスの認め方
■他の誰かに責任を転嫁する
このテクニックはうまくやらないと危険だが、私を含むテクノロジー担当記者がアンテナ問題を大論争に仕立て上げた今、アップルにはマスコミという格好のスケープゴートがあった。
ジョブズは「アンテナゲート」という表現を繰り返し使うことで、この問題はホワイトハウスのウォーターゲート事件に匹敵するほど劇的なスキャンダルだという見方を皮肉り、メディアが作り上げた疑惑だという印象をつくりあげた。
■自己防衛はしないほうがいい
製品の開発段階でアンテナの欠陥を指摘する声があったのに、ジョブズが無視したというブルームバーグの報道について、ジョブズは「たわ言」だと一蹴し、それが事実なら証明してみろと噛み付いた。なるほど、ジョブズはうんざりしているのだ。
さらに、問題を解決するにはソフトウエアのアップグレードが必要だというニューヨーク・タイムズ紙の報道について、あるブログメディアの記者が質問すると、「タイムズ紙と話せ。君たちはいつもマスコミ同士で盛り上がっているだろう?」と怒り心頭の様子だった。
だが、記者の質問はもっともだ。アップルが受信状態の改善に取り組まない理由はないのでは?
■何の対策も取らないのなら、せめてユーモアは忘れずに
ジョブズは会見の冒頭で、動画サイトYouTubeの投稿ビデオを再生してみせた。ひげ面の男性が、iPhone4のアンテナ問題は騒ぎすぎだと歌っている内容だ(男性がアップルからカネをもらっているわけではないと思われる)。
この動画自体が面白いわけではない。私が面白い(そして巧妙だ)と感じたのは、会見に集まったジャーナリストたちが、こんな動画を最後まで見ざるをえない羽目に追い込まれたことだ。
以上のようなテクニックを駆使することで、ジョブズはアンテナ問題をめぐるネット上の論争を終結させることができたのだろうか。いや、それは疑わしい。
ガジェット系ブログメディアのエンガジェットは、会見についての記事をこんな言葉で締めくくっている。「多くの問題がいまだに残っている」
それでも、論争を自分たちの言葉で仕切り直すことで、アップルが大きな一歩を踏み出したのは間違いなさそうだ。
(The Big Money特約)
*iPhone4問題を別の角度から掘り下げた記事を含む特集「アップルの死角」が、7月21日発売のニューズウィーク日本版に掲載されます。