アップルiCarには期待できない理由
アップルは技術系企業には違いないが、グーグルやマイクロソフトとはかなり性格を異にする。実際のところ、アップルはソフトウエア事業もできる超一流の工業デザイン会社なのだ。
そんなアップルが自動車メーカーと提携したらどうなるか。自動車メーカーにとっての開発とは、あらゆる点で工業デザインと関わっている。それと比べたらアップルの工業デザインのプロセスなど児戯に等しい。
垂直統合は車でも時代遅れに
自動車産業は設計とエンジニアリングが組み合わさった非常に複雑な事業だ。シリコンバレーのアイデアを活用し、なおかつ未来の車として世間から期待されている例といったら、テスラ・ロードスターくらいのものだろう。
テスラ・ロードスターはロータス・エリーゼの車台にノートパソコン用の充電池を6000個も積んだ電気自動車だ。たしかにホットな製品だが、既製品を組み合わせて作ったものに過ぎない。そしてアップルはそういった物は作らない。アップルは製品をとことんコントロール下に置こうとする。
だがこの手法は最近の自動車産業では通用しなくなっている。皮肉なことに自動車業界は「ITビジネス化」を目指している。新型車の製造に依存するのをやめ、ドライビング関連のサービスを消費者にどのように提供できるか検討しているのだ。
その一方でアップルは旧来からフォードやGMが推進してきた垂直統合型のビジネスを真似しようとしている。製品・開発・流通のあらゆる部分まで自社でコントロールしようとしているのだ。
今の時点でそれはうまくいっている。かつては自動車メーカーもそうだった。だがトヨタがもっと効率的なプロセスを編み出すと、垂直統合型は突然、機能不全に陥った。
アップルにとってもそれは「いつか来た道」だ。スティーブ・ジョブズが戻ってくる前、革新的であり続けることができなくなって倒産しかけた時のことだ。
漸進的進化を否定する文化
すでに出来上がったアップルのフレームワークよりも、アンドロイドや他のオープンソースのほうが技術革新には向いている。
携帯端末の世界においては、アップルはアンドロイドの一歩先を行っている。だがアンドロイド上で動く自動車向けのアプリケーションを拡充させることができれば、アップルを追い越すことは可能だ。
例えばアンドロイドを搭載したGMの車がたくさん道を走るようになれば、グーグルは交通情報サービスを構築するに足るデータを集めることができるかもしれない。
アップルは今のところ、自動車事業からは距離を置いていられる。同社がグーグルやマイクロソフトに脅威を感じるようになってからでも、新規参入してiCarを売り出すチャンスは残っているだろう。
だが、今もてはやされているアップル製品の使い心地を自動車に持ち込むのは難しいだろう。アップルは常に譲歩を余儀なくされることになる。
だがマイクロソフトとグーグルは違う。特にグーグルは、アンドロイドが新しく取り入れた機能をシームレスにアップデートしていけるよう努めるはずだ。アンドロイド搭載自動車は、たとえ旧型になってもアップデートのおかげで最新の機能を備えることができるようになるだろう。アップルにはできない芸当だ。
だからこそ、アップルは自動車ビジネスに手を出さない。新型iCarに比べたら古いiCarなんて話にならない、というのがアップル流なのだから。
(The Big Money特約)