最新記事

自動車

アップルiCarには期待できない理由

家電メーカーならともかく、自動車メーカーとしてはあまりに未熟で頑固すぎ。グーグルのほうが適性は上

2010年7月1日(木)17時36分
マシュー・デボード

マニアの夢 アップルの自動車参入に対する期待は根強い(写真は、自動車デザインの学生が考案したアップルっぽいコンセプトカー『iMo』))

 ほんの数カ月前、ちょうどアップルが世界征服に向けて着々と布石を打っていたころのこと。

 一部のブロガーから、アップルが携帯電話やタブレット型端末に変革をもたらすことができるなら、マイカーの世界にも一石を投じることができるのではないかとの声が上がった。「iCar」時代がすぐそこまで来ているというわけだ。

 だがこれは楽しい妄想に過ぎなかったようだ。アップルはこれまで、音楽やメディアと人間の関係を変える取り組みを進めてきた。だが車との付き合い方を変えようとは思っていない。

 アメリカでは若者の自動車離れが言われており、これは賢明な判断かもしれない。だが一方で、自動車メーカーと手を組んで運転中の過ごし方に変革をもたらし、車そのもののあり方を変えるチャンスを、みすみすライバル各社に与えているようなものでもある。

 実際、アップルはグーグルを初めとするライバル企業を打倒するには至っていない。そしてグーグルが得意とする技術は、アップルがリードしている分野よりも自動車とのほうが相性がいい。



 グーグルだけではない。長年のライバル、マイクロソフトは自動車事業にかなり前から進出しており、07年からはフォードと手を組んでいる。

 マイクロソフトの車載情報システム「シンク」は、車にブルートゥースやスマートフォンといった新しい技術を取り入れたことで高い評価を得ている。マイクロソフトは他に先駆けて自動車の持つ可能性を「理解した」IT(情報技術)企業であると自負している。

 シンクのおかげでフォード車は進化しクールになった。車に乗りながら電話やネットに接続することができるのだから、ガジェット好きなら気に入るはずだ。

 電話に向かって話すというよりは、電話の中で運転しているような感じだ。シンクがあれば電話をかけることも音楽を聴くことも道を探すことも、メッセージを読みあげさせることもできる。

工業デザインでは子供同然

 だがシンクはオープンソースではなくあくまでもマイクロソフトのシステム。ということは、さらに革新的なIT企業であるグーグルにも競争のチャンスは残されている。

 5月、ゼネラル・モーターズ(GM)は車載通信システム「オンスター」のサービス強化のためにグーグルの携帯端末向けOS(基本ソフト)アンドロイドの技術を取り入れることを発表した。これにより、将来乱戦が予想される自動車ITの分野で先制パンチを繰り出したわけだ。

 この組み合わせはうまくいった。グーグルの優れた多くのサービスのおかげで、オンスターは前よりずっと便利になった。いい例がグーグル・マップだ。オンスターのナビゲーションシステムに組み込まれ、音声で道順を教えてくれるのだ。

 これはマイクロソフトとフォードにとってはうれしいニュースとは言えないが、グーグルとGMにとってマイナス面は皆無だ。これまでグーグルが成功を収めてきたサービスなら、GMの乗用車やトラックに応用してもうまくいくはずだ。GMのほうも、今後アンドロイドを使ってグーグルがうまい製品やサービスを作ってくれれば、そこから利益を得ることができる。

 時代遅れだったオンスターはグーグル化されてぐっとクールになった。これなら先行するフォードを抜き去ることもできる。

 結局のところ、これは一番いいプログラミングコードを書けるのは誰かという戦いだ。シンクやオンスターに注目が集まっているが、これは主にソフト面についてであってハード面に対してではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中