最新記事

株式市場

ダウ「瞬落」、真犯人は超速取引

得体の知れない乱高下は誰のせい?──100万分の1秒単位で数十億株を売買するHFT(高頻度取引)という金融業界の新たな「悪役」

2010年6月30日(水)15時38分
マシュー・フィリップス

ショック状態 ダウが数分で998ドル下落した5月6日の「フラッシュ・クラッシュ」に震撼するNY証券取引所 Mario Tama/Getty Images

09年3月に底値を付けたダウ工業株30種平均は70%近く回復し、今年4月26日には1万1205ドルまで戻した。この間、相場はおおむね順調で安定していた。だがその後、市場は津波に襲われる。ギリシャの債務危機が欧州全体の政府債務危機に波及しかねないことが明らかになった4月27日、ダウは213ドル下落し、それに続く17営業日のうち13日は一日の変動幅が100ドル以上に達した。

 なかでも最悪だったのは5月6日の「フラッシュ・クラッシュ(瞬時暴落)」だ。ダウはものの数分で998ドルも暴落し、それから取引終了までに600ドル以上戻して、結局、前日比350ドル近い安値で引けた。

 09年春に景気が回復し初めて以降、ほぼ影を潜めていた激しいボラティリティー(価格変動)が、うなりを上げて戻ってきた。株価が大幅に下落した今年5月20日の翌日には、スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数のボラティリティーを示すVIX指数(別名「恐怖指数」)は25%上昇した。

 この乱高下はいったい誰の責任なのか。多くのアナリストは容疑者として、高頻度で売買を繰り返すハイ・フリークエンシー取引(高頻度取引=HFT)、つまりコンピューターに組み込んだアルゴリズム(処理手順)で超高速取引を行うハイテクトレーダーたちを挙げる。1回の取引の儲けは小さいが、時には一日に数十億株にも上る大量取引を超高速でこなすことで利益を膨らませるのだ。

 高頻度トレーダーが行う大量売買は、売り買いが希望の価格で成立する流動性を市場にもたらし、取引の円滑化を助けているので、すべての投資家のためになっている、というのが彼らの言い分だ。

新興だが取引シェア7割

 だが、彼らの取引のスピードとコンピューターに判断を委ねている点と、規制がほとんどないに等しいことなど考え合わせると、この「影の市場」がボラティリティーを増幅し、極端なものにしている可能性はある。

 自分たちはむしろボラティリティーを小さくする存在だという超高速トレーダーの言い分にもかかわらず、政治家や規制当局は神経質になり始めている。「次の金融危機の種をまいているのではないかと心配だ」と、HFT批判の急先鋒である民主党のテッド・カウフマン上院議員は言う。

 かねて金融規制改革を求めていたカウフマンは09年夏、標的をHFTに絞り、米証券取引委員会(SEC)にコンピューター取引市場全体の構造を「一から」見直すよう尻をたたいた。

「この取引は、高度に複雑でまったく規制されていない」と、彼は3月に本誌に語った。「前に同じような取引を放置したときはとんでもない事態を招いた。業界が『心配するな』と言っているのも前回と同じだが、そういう言葉を信じられる時期はとうの昔に過ぎ去った」

 HFTは金融界の新たな悪役かもしれないが、彼らの取引はアメリカ株取引全体の70%以上を占めており、消し去れるものではない。企業業績を基準に株を売買するという伝統的な投資手法は、アルゴリズムで市場の非効率を探して売買する手法にほぼ取って代わられたと言える。

 その手法は、アメリカからヨーロッパ、カナダ、ブラジル、インドなどの市場、そして債券、通貨、各種先物にも広がりつつある。もし金融規制改革で店頭デリバティブ(金融派生商品)が市場で取引されるようになれば、これもHFTの対象になるのは間違いない。

 しかも、高速取引の技術は日進月歩。4年前にはミリ秒(1000分の1秒)単位で取引を執行するのが高速取引だった。今の最速業者はマイクロ秒(100万分の1秒)単位の取引を行っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中