海の底に眠る石油を探せ!
環境汚染のリスクもある。水銀やカドミウムなどが含まれた泥が採掘の過程で海中に大量に放出されれば、食用の魚などが汚染される恐れがあると環境保護活動家は主張する。ハリケーンも心配だ。05年には「リタ」と「カトリーナ」の襲来によって、外縁大陸棚のプラットホームとパイプラインから約260万誚の石油製品が海に流出した。
だがアメリカでは9・11テロ以降、環境保護より中東の石油への依存度を減らすことを優先すべきだという意見のほうが優勢のようだ。今では共和党だけでなく、一部の民主党議員までが海底油田の開発を推進するようケン・サラザール内務長官に働き掛けている。
調査会社ラスムッセンによる09年12月の世論調査によると、米国民の68%がアメリカ領海での海底油田開発を支持している。
二酸化炭素排出量を減らすべきだという声が世界で高まる一方で、石油会社は米国内での世論を追い風に海底油田の開発に巨額の投資を行っている。
その取り組みの最前線がメキシコ湾岸だ。シェブロンのタヒチ油田は09年5月に石油生産を開始。最初の5カ月で日量12万5000バレルを達成し、10億ドルを上回る売り上げを同社にもたらした。
シェブロンと提携企業がこれまでにタヒチに投じた資金は27億ドル。シェブロンは今年中に油井を最高6本増やす計画だ。
この事業を取り仕切っているのはテキサス州ヒューストンにあるシェブロンの北米探査本部。ここで地質学の専門家バーニー・イセンが、タヒチ油田の3Dモデルをコンピューター画面上で見せてくれた。この3Dモデルは深海油田の開発に不可欠な地図の役割を果たしている。
深海油田の油井を掘るには何カ月もの時間と、時に1億ドルを上回る費用が掛かる。油井では温度は230度以上にも達し、ダンプカーを押しつぶせるほどの大きな圧力もかかる。
「超深海」油田も視野に
ダイヤモンドのように硬い刃先のドリルを使っても、泥や幾重もの岩の層を6〜8キロ掘り進むのは大変な作業だ。浅い海では1時間に30〜60メートル掘ることも可能だが、深海では1日かけてそれだけ掘れれば上出来だ。
タヒチ油田では6つの油井から原油がくみ上げられる。高温の原油は海水で冷却され、いくつかの加工工程を経た後、パイプラインで陸に送られる。
生産作業責任者ティム・ブレイシーは1日2回、原油のサンプルを採取する。「(プラットホームで仕事をしているのは)海底からくみ上げた石油を売り、会社のために利益を上げるためだ」
だが環境保護主義者は海底油田開発に懐疑的な目を向けている。これだけ地中深くから石油をくみ上げれば、どうしても環境に負担がかかるというのが彼らの主張だ。
「石油の流出が怖い」と言うのは環境保護団体、天然資源保護委員会のフェリシア・マーカス。「石油が流出すれば、海洋生物や沿岸地域がダメージを負うことになる。それでも海底油田が必要なのかと、もう1度考えてみる必要がある」
シェブロンの答えはもちろん「イエス」だ。来年には新たに複数の深海油田プロジェクトに着手する予定。同社をはじめとする石油メジャーは水深2000メートル以上の海底からさらに地中深く掘削する「超深海」油田プロジェクトにも取り組んでいる。
いつの日か、環境に優しい安価なエネルギーが石油を駆逐するかもしれない。だが当分は、石油会社は海底油田の可能性に期待をかけ続けるだろう。
[2010年4月21日号掲載]