ペットゲームで経済を読め
SNSで人気爆発中のオンラインゲームで予測する、人間の行動と経済の深い関係
リアル収益源 2000万人近いアクティブユーザーを獲得したペット育成ゲーム『ペット・ソサエティー』
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェースブックを使ったことのある人なら、同じフェースブックのサイト上にあるペット育成ゲームや農場経営ゲームに夢中になっている人たちを不思議に思ったことがあるかもしれない。
少なくとも私はそうだ。時間がもったいないと思うだけではない。ゲームの中の世界では銃や肥料をはじめとしたさまざまな商品が売られているのだが、多くのプレーヤーが本物のカネを出してそうした「商品」を買っていることに納得がいかないのだ。
だがクリスティアン・セゲルストラレにとって、これは真剣勝負のビジネスだ。彼が経営するプレーフィッシュ社は、冒頭で挙げたオンラインゲームの大手で、バーチャル商品の売り上げでも業界トップクラス。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済学の修士号を取ったという彼は、バーチャル商品の世界が経済学研究に新たな道を開いたと語る。「人間の行動や、一定の経済環境下において人がどのようにやりとりするかについて多くを学べる」
フィンランド出身のセゲルストラレは32歳。携帯電話用ゲームの開発会社を経営していたこともある。07年にフェースブックが、同サイト上で動かすアプリケーションソフトの規格を公開すると発表したとき、セゲルストラレはフェースブックが新たな、そして大きなゲームの市場になるかもしれないと考えた。
彼は仲間と共にプレーフィッシュを設立。ゲームそのものは無料だが、ゲームで使われるバーチャル商品を売ることで利益を上げるというビジネスモデルを採用した。
市場規模は60億ドルに拡大か
2000万人近いアクティブユーザーを獲得したペット育成ゲーム『ペット・ソサエティー』などのヒット作のおかげで事業は拡大。昨年11月にはゲームソフト大手のエレクトロニック・アーツに4億ドルで買収されて傘下に入った。
セゲルストラレによれば、プレーフィッシュがネット上で提供しているゲーム(計12本)では、1日に9000万点ものバーチャル商品が売れているという。「こんなに急成長するとは誰も予想できなかったと思う」と、彼は言う。
市場調査会社インサイド・ネットワークによれば、アメリカの昨年のバーチャル商品の市場規模は10億ドル強だった。前年比で5億ドルの増加で、今年には16億ドルに達すると見込まれている。ヘルシンキにあるバーチャル経済研究ネットワークによれば、世界的な市場規模は最高で60億ドルほどになるかもしれない。
経営者としてだけでなく、経済学の専門家としても、セゲルストラレにとってはうれしい話だ。というのも、経済学者が実世界の人間の行動を理論化しようとすると、いつも情報の不完全さという問題にぶつかるからだ。「データは常に限られていて、理解できたと思っても、それを疑う理由は山とある」と、彼は言う。
一方、バーチャルな世界では「データは完璧にそろっている。SNSではユーザーの身元がはっきりしているから、性別や年齢やあらゆる基準から分析できる」
消費税を5%上乗せしたら
従来の経済学が扱ってきたのは過去のデータだけ。だが仮想の世界では「リアルタイムでどんな実験もできる」とセゲルストラレは言う。例えば、商品の価格に5%の税金を上乗せしたら需要はどうなる?
「税金が上乗せされた際の拒絶反応は、15〜20歳の男性よりも35歳以上の女性のほうが小さいことが分かるかもしれない。こんなこと、実世界では確認できない」