最新記事

新興経済

「次の中国」アフリカ経済の実力

2010年4月12日(月)12時53分
ジェリー・クオ

 複数の調査によれば、過去1年にナイジェリアに帰国した高学歴の専門職はざっと1万人に上る。国外で高等教育を受けた後、母国で職を探すアンゴラ人はこの5年間で10倍の1000人に増えた。

 ナイジェリア人のバート・ナジは05年、米ピッツバーグ大学の終身教授の座をなげうって帰国し、今はサハラ以南初の民間電力会社ジオメトリック電力を経営している。総工費4億ドル、総出力は18万8000キロワットで今年秋に運転を開始。南東部に位置する人口200万人の町アバに初めての電力を供給する予定だ。

アジアより高い収益率

 スタンフォード大学法科大学院を卒業したアファム・オニエマ(30)は、年収数十万ドルの企業法務の職を断り、5000万ドルを掛けてナイジェリア南東部に最先端の病院を建設している。営利事業の傍ら、貧困層のための慈善事業部門もつくる予定だ。

 新消費者層の急拡大とともに、アフリカは間もなく次のインドになる、と多くの専門家は考えている。急速な都市化や、15年前にインド亜大陸をつくり替えたのと同じようなサービス産業の勃興、そしてインフラ建設ラッシュがここでも起こっているからだ。

 かつてインドが豊富な低賃金労働者を利用したように、アフリカは大都市化の急成長を利用できる。アフリカの都市面積の拡大ペースは既に世界一だ。都市化は、工業化の推進と規模の経済を通じて成長を一気に加速させる。

 都市に住むアフリカ人はまだ人口の3分の1にすぎないが、国連人間居住計画(本部・ナイロビ)によれば、彼らの経済活動はGDPの80%を占めている。今後30年間で、大陸人口の半分が都市に住むようになるだろう。

 消費と都市化の関係が最も明らかなのはナイジェリアの最大都市ラゴスだ。人口1800万人のこの大都市には、不可能はことは何もないという、重慶やムンバイにも似た勢いがある。商業の中心地ビクトリア島の不動産価格はマンハッタン並みに高い。どこを見ても工事だらけで、高級マンション、オフィスビル、道路──。海に建造中の人工島には、人口50万人の新しい街ができる予定だ。

「足りないものばかり。つまり、すべてが成長分野ということだ」と、アクセンチュア・ナイジェリアの会長でベンチャーキャピタリストのアデトトン・スレイマンは言う。「そこに待つチャンスを思うと思わず恍惚となるほどだ」

 最も成功したアフリカの黒人起業家アリコ・ダンゴーテも、この消費文化をカネに換えた。米経済誌フォーブスによれば、ダンゴーテの資産額は25億ドルに上る。

 78年にベビーフードやセメント、冷凍魚の輸入から始めた彼の会社は、今はナイジェリアの内需成長に的を絞り、商業施設やオフィスビル向けのセメントを生産し、高級賃貸マンションを経営。さらに麺類や小麦粉、砂糖作りから第3世代(3G)携帯ネットワークサービスや交通まで多角化している。「ナイジェリアほど儲かる国はほかにない」と、53歳のダンゴーテは言う。「世界で一番大きな秘密だよ」

 だが、もはや秘密ではなくなってきている。オックスフォード大学のポール・コリアー教授(経済学)が、00〜07年に操業していたアフリカの株式公開企業954社について調べたところ、その資本収益率は中国やインド、ベトナム、インドネシアの同種企業に比べて平均65%も高かった。アジアの人件費高騰が原因だ。

中国が「経済特区」づくり

 アフリカ企業の利益率は平均11%で、これもアジアや南米より高かった。例えばアフリカの携帯電話事業者の利益率は、世界の同業者の中で一番高い。日用品大手のユニリーバや食品大手のネスレといった先進国の多国籍企業も、アフリカでの利益成長が最も高くなっている。

 OECD(経済協力開発機構)のリポートによれば、08年の世界の外国直接投資(FDI)は前年より20%減少したが、対アフリカ投資は16%増加して619億ドルと過去最高を記録した。

 世界銀行は、エチオピアに工業地区をつくろうとする中国を支援している。70年代末以降に改革開放の先駆けとして中国に設置され、栄えた経済特区や経済技術開発区のような経済特別区の最初の例になるだろう。

 それでも、アフリカはまだ新興市場の辺境にあり続ける。IMFの統計によれば、数々の進歩にもかかわらず、アフリカで企業を経営する困難とコストは世界一だ。汚職もひどい。国際的な汚職監視団体トランスペレンシー・インターナショナルは、アフリカ53カ国のうち36カ国で汚職が「蔓延」していると言う。

 だとすれば、アフリカの事業環境がしばしば「有毒」と言われるのも無理はない。だが経済危機をきっかけに、長期的な視点を持つ投資家は「先進国市場にも大きなリスクがある」ことに気付いたと、世界銀行のロバート・ゼーリック総裁は言う。

 中国やインドのように、アフリカは「事実」を利用して自らに関心を集めようとしている。そしてアフリカは、ひょっとすると他のどの地域より新しい世界秩序をはっきりと体現している。最も貧困な国々も、前へ突進する道を見いだせるということだ。

[2010年3月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中