メガ雇用回復がやって来る!
政治もこうした傾向を増幅している。右派にとっては、バラク・オバマ「社会主義」政権下での景気回復は自分たちの信条に反し、あってはならないことだ。2月に成立した景気対策法にも、共和党議員はこぞって反対票を投じた。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領の経済顧問を務めたスタンフォード大学教授マイケル・ボスキンは3月、「オバマの急進主義がダウを殺している」と書いた。しかしその後、ダウ工業株30種平均は57%上昇した。
一方、左派が経済を悲観する理由は2つある。1つは、銀行救済策への負い目。経済を破壊しかけた高給の愚か者たちに不当な報酬を与えることに罪の意識がある。
次に控える成長産業とは
もう1つは、金融危機で信用が失墜したウォール街と共和党にオバマが迎合し過ぎること。景気対策法が上院を通過するのに必要な共和党票3票を獲得するため、政府は景気対策の規模を約3000億ドル削減した。おかげで効果のない政策になってしまったと、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンは主張する。
悲観主義の背景には、もっと抽象的な要因もある。集団的な想像力の欠如だ。確かにマクロ経済の数字は雇用回復の兆候を示しているようだが、その雇用がどこから湧いてくるのか分からない。近年の雇用創出を引っ張ってきた住宅ブームや借りやすいローンはもはやない。インターネットや住宅関連産業のような、次の巨大産業も見当たらない。
次の雇用の牽引役は1つの大きな産業ではなく、比較的小さい複数のスポンサーによるものになりそうだ。政府支出もその1つ。例えば国勢調査局は、10年の国勢調査に備えて120万人を雇用しようとしている。
景気対策法で用意された7870億ドルも、実際に使ったのはまだ3割の2376億ドルだけ。残りは10年と11年の減税やインフラ支出に使われる。雇用回復もそれで底堅いものになるだろう。
12月9日、ニュージャージー交通局は、ハドソン川の下を通ってニューヨークとニュージャージーを結ぶ通勤列車用のトンネル工事を2つの建設会社に発注した。事業規模は5億8300万ドルで、来年には少なくとも1000人の雇用を生み出すだろう。
ドル安が輸出の追い風に
世界経済の成長と弱いドルは、輸出の追い風になる。アメリカの輸出は08年7月の1640億ドルから09年4月の1220億ドルに落ち込んだが、その後は毎月増加して10月には1370億ドルまで回復した。ボーイングは12月4日、大韓航空から次世代旅客機747‐8型機5機を計15億ドルで受注したと発表した。
政府からの新たな支援もある。12月9日、オバマは景気刺激策の第2弾となる雇用対策を発表した。中小企業が新規雇用をした場合の税優遇や、既に成功を収めている新車買い替え助成制度などが含まれる。
もっともこの雇用対策も、超党派の批判の的になっている。少な過ぎると左派は言い、右派はやり方が間違っていると言う。オバマの政策は「財政支出頼りでケインズ的過ぎる」と、下院共和党院内幹事エリック・カンターは先週、本誌に語った。
雇用をめぐる悲観論がこれほど根強いのも驚くに当たらない。金融危機以降の経験から、人々は政府もアメリカ企業も信じられなくなっている。
だが終末論者は間違っている。彼らはため込んだカネを企業が使うわけがないとか、新たな雇用を生み出す飛躍的な技術など出てくるわけがないと思い込んでいる。だが、5年前に2300人ほどだったグーグルの社員は今では2万人になっている。04年の時点で、それを予想できた人がいるだろうか。経済学者は5カ月先のことさえ予測できない。
最近の経験を思えば、アメリカ人が雇用の先行きに希望を持てないのも自然の成り行きだ。だが今は、そうした常識のほうが大きな間違いの可能性がある。間違いであるほうに、実に多くの人々の雇用が懸かっている。私自身の雇用も含めて。
[2009年12月23日号掲載]