最新記事

世界経済

中国の失速を願うのはもうやめよう

金融危機の真の勝者は景気対策に成功し、未来投資も怠らない中国だ

2009年11月27日(金)14時07分
ファリード・ザカリア(国際版編集長)

 1年前、主要国の政府は世界経済を救った。08年10月、投資銀行リーマン・ブラザーズは既に破綻しており、保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)も破綻寸前。どの銀行も自己資本危機に直面し、世界中の金融システムが麻痺していた。

 そこでアメリカを皮切りに各国政府が対策に乗り出した。金融機関の救済、財政出動、そして何より重要な金融緩和策。恐慌を阻止できたのは、こうした措置のおかげと言っても過言ではない。しかしその後も、金融危機は世界各国で景気を大きく後退させている。

 今年に入ってからの驚きは、インド、中国、インドネシアといった新興大国の経済が活気を維持していること。なかでも危機を切り抜けるだけでなく、力強く成長を続けている国がある。中国だ。

 中国経済は今年、前年比8・5%の成長となる見込みで、輸出は08年前半のレベルに回復し、外貨準備高は過去最高の約2兆3000億ドル近くに達した。政府の景気刺激策のおかげで、国内のインフラ整備は新たな段階に入った。これらの多くが、政府の非常に効果的な政策によるものだ。

 世界的なプライベートエクイティ(未公開株)投資会社、ウォーバーグ・ピンカスのチャールズ・ケイCEO(最高経営責任者)は、何年間も香港に住んだことがある。数カ月前に中国を訪れた後、ケイは私に言った。「今回の危機で、他の政府はどこも守勢に回って自国の弱いところを保護している。一方、中国は危機をばねにして果敢に前進している」

 実際、世界経済危機の勝者は中国だと言えるのではないか。

 欧米のほとんどの国は危機に対する備えが十分ではなかった。政府支出があまりにも多く、財政赤字も膨れ上がっていたため、経済安定化のために巨額の支出が必要になると、赤字は急増した。

 EU(欧州連合)加盟国は財政赤字をGDP(国内総生産)比3%以内に抑えることを義務付けられているが、来年は多くの国で財政赤字がGDP比8%に達するだろう。アメリカの財政赤字は、GDP比では第二次大戦後最高になりそうだ。

教科書どおりの景気対策

 08年初め、中国の状況は欧米とはまるで違っていた。財政は黒字で、過度の成長を抑えるために金利を引き上げていた。銀行は消費支出と過剰信用を抑えていた。そのため、危機に際して中国政府は教科書どおりの景気刺激策を打つことができた。つまり利下げをし、政府支出を増やし、信用を緩和し、消費を奨励した。好況時に財布のひもを締めておいたおかげで、不況時に緩めることができたのだ。

 中国の景気刺激策の本質に目を向けよう。米政府の支出は補助金や賃金や医療給付などの形で、ほとんどが消費に向けられている。一方、中国の景気刺激策の大部分は、今後の成長すなわちインフラ整備と新技術への投資だ。中国政府は過去10年間、1級都市で21世紀にふさわしいインフラを整備してきた。今度は2級都市の番だ。

 中国は今後2年間で鉄道関連に総額2000億ドルを投じる予定で、その多くが高速鉄道用。北京│上海高速鉄道は、両市間の所要時間を10時間から4時間に短縮する。一方、アメリカは200億ドル足らずを10件を超えるプロジェクトに振り分けるというのだから、失敗するのは目に見えている。

 もちろん、鉄道だけではない。中国は今後10年間で道路約7万誅と空港約100カ所を新設する予定。海運業でも中国は世界をリードしている。世界の3大港のうち、2つは上海と香港だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中