公的年金は早く破綻したほうがよい
どうすれば、医療の質を落とさずに医療費を抑制できるのかというのも大きな問題だ。一部の試算によれば、アメリカで支出されている医療費の3割は本来不要、もしくは効果のない医療に支払われている可能性があるという。
残念なことに、政府の報告書によればメディケアの破綻は17年まで、公的年金の破綻は37年まで起きない。破綻時期をそれぞれ19年と41年としていた昨年の予測よりXデーは近づいているが、遠い先の話であることに変わりはない。
その日まで、状況はじわじわと悪化していく。問題を抜本的に解決するためには、社会保障費の増大に歯止めをかけない限り、財政赤字の拡大を容認するか、増税を行うか、社会保障以外の歳出を減らす以外にない。しかし大統領と議会は懸念を表明するだけで、上っ面の対策しか打ち出さない。
オバマも口先だけの大統領?
「21世紀の公的年金を守らなければならない」と、ビル・クリントン元大統領は言った。「このままだと制度は破綻する」と、ジョージ・W・ブッシュ前大統領も言った。ただしそうした言葉とは裏腹に、抜本的な改革はなされていない。バラク・オバマ大統領もこの2人の前任者と同じ道を歩もうとしているように見える。
「これまで私たちは(社会保障の財源問題という)空き缶を道路の先へ先へと蹴り続けてきた」と、オバマはワシントン・ポスト紙に語った。「もう道路は行き止まりだ。これ以上、空き缶を蹴飛し続けることは許されない」
上手な比喩を思いつくだけでは意味がない。就任半年足らずで完璧な青写真を示すことまでは期待していない。しかしオバマは、支給年齢の段階的引き上げ、富裕層への給付水準の段階的引き下げ、メディケアの全面的見直しなど、避けて通れない改革の基本的な方向性すらいまだに示していない。
自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーと同じように、アメリカは「差し当たり継続できるから」というだけの理由で自己破壊的な悪癖を続けてきた。だが、改革を先延ばしすれば、それだけ改革の痛みは増す。高齢者や納税者の痛みは、時間が経つほど大きくなる。
アメリカの公的年金制度が最後に大きな改革を経験したのは1983年。基金が底をつき始めて、議会が対策を講じないわけにいかなくなったときのことだ。現在のアメリカにも、そうした「危機」が必要なのかもしれない。