最新記事

息がぴったり、ISISと米共和党

世界はISISに勝てるか

残虐な人質殺害で世界を震撼させたテロ組織の本質と戦略

2015.05.18

ニューストピックス

息がぴったり、ISISと米共和党

イスラム教を戦争の宗教と決めつけ、宗教対立を煽る共和党大統領候補はIS指導者バグダディの応援団だ

2015年5月18日(月)14時18分
ウィリアム・サレタン

負傷説もあるが バグダディの演説はISISに強い影響力を持つ(写真は2014年7月)Social Media Website-REUTERS

 2016年米大統領選の最も熱い争点の1つは、イスラムの名を借りたテロや虐殺とどう戦うかだ。オバマ大統領とヒラリー・クリントン前国務長官は、こうした暴力をイスラム的と呼ぶことを拒否。イスラム教徒はISISやアルカイダの仲間ではなく犠牲者だと主張する。

 一方、大統領選に出馬表明している共和党議員らは、ジハーディスト(聖戦士)の暴力とイスラム教を別物とする見方は青臭くて意気地がなく危険だと主張する。「テロリストをテロリストと呼べる最高司令官がアメリカには必要だ」と、ウィスコンシン州知事のスコット・ウォーカーは言う。またマルコ・ルビオ上院議員は、かつてソ連を「悪の帝国」と呼んだレーガン元大統領のような強い姿勢を誓う。


ソ連の政治的経済的な抑圧に対する批判をレーガンが一瞬もためらわなかったのと同じく、中東の惨劇の元凶を名指しすることをためらってはならない。その元凶はイスラム過激派だ。


 共和党は敵をイスラムと呼ぶだけではない。彼らはクリントンとオバマが唱える「共存」も批判する。先週サウスカロライナで行われた会議で、彼らはそうした幻想を笑い飛ばし、イスラムに対する嘲りを繰り返した。元ヒューレット・パッカードCEOで共和党の大統領候補指名を目指すカーリー・フィオリーナは、クリントンが「宗教的寛容」と「キリスト教徒が首を切られ磔刑に処されているときに敵に共感する必要」を説いた説明を求めた。

 こうした論理を使う共和党議員は、自分が強く振舞っているつもりでいる。だが実際には、敵を利しているのだ。彼らはISISに対し、アルカイダにしたのとまったく同じことをしている。新兵募集やソーシャルメディアを通じたプロパガンダ、政治戦略に手を貸している。ある意味、ISISと共和党は息がぴったり合っているといえる。

 嘘だと思うならISISの指導者アブ・バクル・アル・バグダディに聞いてみればいい。ISISは先週、バグダディの演説ビデオを公開したが、彼は共和党の強硬派と同じことを言っている。

1.これはイスラム教徒と非イスラム教徒の戦いだ 30万人の兵しか持たないISISは、世界戦争どころか地域戦争も戦えない。だからこそ、人々の宗教的対立を煽ってより広い支持を集めようとしている。バグダディにとっては、共和党がイスラムを敵と触れ回ってくれるのは願ったりかなったりだ。

2.共存は不可能 イスラム教は欧米の価値観と共存できるのか。多くの保守派の活動家や政治家はできない、と言う。この信念もバグダディにとって好都合。彼は二者択一を求める。「ユダヤ教徒やキリスト教徒はあなたが改宗しない限りあたなを受け入れない。あなたが自らの宗教に背を向けるまで、戦いを挑み続けるだろう」

3.イスラムは戦争の宗教だ 共和党の大統領選有力候補ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事はイスラム世界の「一部」は「平和の宗教ではない」と言う。バグダディも同じ意見だ。「イスラムが平和の宗教だったことはいまだかつてない。イスラムは戦争の宗教だ。預言者はアラーのみが神となる日まで戦争することを命じられた。彼は一日たりとも戦争に飽きることはなかった」

© 2015, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中