最新記事

ISIS「脱走兵増加」で新たなテロが幕を開ける?

世界はISISに勝てるか

残虐な人質殺害で世界を震撼させたテロ組織の本質と戦略

2015.02.24

ニューストピックス

ISIS「脱走兵増加」で新たなテロが幕を開ける?

逃げ帰ったはずの外国人戦闘員が母国に牙をむく──「脱走」の陰にちらつく不気味な思惑

2015年2月24日(火)15時33分
アレッサンドリア・マシ

広告塔 外国人戦闘員はISISのプロパガンダにもたびたび登場している Al-Hayat Media Center/slamic State Group

 このところテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)からの脱走が後を絶たない。昨年12月以降、ISISは脱走を試みたとして大勢の戦闘員を拘束し処刑している。だが、中にはISISが脱走を装って欧米出身の戦闘員を母国に送り込んでいるケースもあるようだ。

 こうした偽脱走兵はISISの巧妙なメディア操作のおかげで、母国の政府に気付かれずに帰国しているという。「脱走兵には2種類ある。1つは恐怖に駆られて逃げ出すタイプ。もう1つは、脱走兵と称して送り出された危険なテロリストだ」と、シリア北部の都市ラッカの反ISIS団体「ラッカは静かに殺戮されている(RSS)」のアブ・モハマドは言う。

 ISISには90カ国から約2万人が戦闘員として参加。シリア人戦闘員の2倍近い給与を手にし、民間人にも容赦しないことで知られている。「ISISは外国人戦闘員を好む。常に大歓迎だ」とRSSのアブ・イブラヒム・ラカウィは言う。

 外国人戦闘員はISISが「首都」と称するラッカに集められていた。英語圏の国にテロ攻撃を仕掛けるため、英語を話す外国人ばかりの大隊も創設された。

 現地の活動家らによると、そのラッカから多くの外国人が姿を消した。そのうちシリアのアルカイダ系組織アルヌスラ戦線の元メンバーは、古巣に戻るかトルコに逃げた。しかしそれ以外は、ISIS幹部の指示で帰国したという。

 ISIS内部に通じる活動家によれば、「ISISはわざと脱走兵の噂を流し、戦闘員がすんなり欧米各国に潜入して現地のテロリストと共にテロを実行できるようにしている」。ヨーロッパの複数の都市で同時多発テロも計画しているらしい。

大量の武器を持ち帰る

 ベルギー当局は先月、ISISで訓練を受けて帰国したベルギー人らが「大規模なテロ計画」を企てていたとして摘発作戦を実施。10分に及ぶ銃撃戦の末に容疑者2人を射殺した。容疑者に武器を提供したのはISISだと、米ブランダイス大学の社会学者でヨーロッパのイスラム問題に詳しいユッテ・クラウゼンは言う。「ヨーロッパに大量の武器が持ち込まれる恐れがある。帰国する戦闘員が車に積んでくる」

 現にイギリスでは昨年、ISISに加わって戦死したはずの男を当局が拘束。レンタカーの中から武器が発見された。

 シリアからの脱走兵はトルコに向かうのが一般的だ。そこからISIS外国人戦闘員の最大の供給源の1つであるチュニジアへ。あるいは観光を装ってギリシャへ入った場合、ヨーロッパのパスポートさえあればユーロ圏内を自由に移動できる。

 帰国後は既存のテロ組織と連携する場合が多い。こうしたテロ組織の一部は何十年も活動していて、以前はアルカイダとのみ組んでいたが、現在はISISともアルカイダ系組織とも連携している。「連中は誰とでも手を組む。死なない限り、活動を続けている。離脱者はめったに出ない」とクラウゼンは言う。

 もちろん、偽脱走兵ばかりではない。軍事経験が乏しい新入りの外国人戦闘員の多くは自爆テロ要員にされるため、「殉教」が嫌で逃げ出す者、ヨルダン軍パイロットの「処刑」に納得できない思いを抱える者もいる。「金を手にしたら逃げる戦闘員も多い」とラカウィ。「疲れた、有志連合の空爆に耐えられない、ISISは善良ではないなど、脱走の動機はさまざまだ」

[2015年2月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中