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強まる経済制裁の包囲網
指導者の後継選びは最終局面に
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北でドイモイが始まる?
餓死者が出るほど食糧事情が悪化して、北朝鮮当局はデノミで破壊した自由市場の復活を認め始めた
分かれ道 中朝国境の鴨緑江を船で渡る北朝鮮住民(5月) Jacky Chen-Reuters
09年に核実験を強行し、国際社会から経済制裁を受けている北朝鮮が、国内の自由市場に対する規制を緩和せざるを得ない事態に追い込まれている。今年に入って、餓死者が出るほど食糧事情が悪化しているためだ。
韓国の人権団体「良い友達」が北朝鮮の当局者や市民から得た情報によれば、朝鮮労働党は5月26日、下部組織への文書で食糧配給の中止と住民の「自給自足」を指示した。文書によれば、「予想以上に深刻」な食糧不足に対して「国家はいかなる措置も取れなくなった」という。
食糧不足は悲惨だが、破綻した経済の本格的な改革が始まる日はそう遠くないかもしれない。
北朝鮮当局は昨年11月、突然デノミ(通貨単位の切り下げ)を実施して、「反社会主義的」な自由市場を機能停止に追い込んだ。住民はそうした市場で物を売って稼ぎを蓄えていたが、デノミでその蓄えは紙くず同然になった。
北朝鮮当局は、縮小あるいは一時的に閉鎖されていた市場に対する規制を緩和し、自由な取引を認めることで、国民が飢えから脱出することを期待している。国営企業の経営者には、従業員を養えるような、特にうまみのある外国との取引をするよう命じた。
最終的には、ベトナムや中国で数十年前に始まったような、何年にも及ぶ改革運動に指導部が重い腰を上げることになるかもしれないと、製薬とコンピューターソフトウエアの分野で北朝鮮との合弁ビジネスに携わっているスイス人のフェリックス・アプトは言う。
ベトナムの道を歩むのか
「工業用資源の蓄積やインフラ整備に手の付けられない状態で、巨大な軍隊を維持することが、そもそも無理難題。非常に近い将来、経済改革は避けられない」と、平壌駐在欧州企業連合会の会長も務めたアプトは言う。「興味深い状況だ。個人的にはベトナムの改革の歴史を思い出す」
アプトは平壌に行く前、ベトナムで長年ビジネスをした経験がある。「80年代初めのベトナム経済はひどいありさまだった」と、彼は言う。ホーチミン市のグエン・バン・リン党書記は穏健な経済改革を支持したが、時期尚早だったため書記の座を追われ、82年には政治局も去る羽目になった。
「ベトナム共産党のレ・ズアン書記長は経済改革に頭から反対していた。彼が86年に死去すると、その年の党大会はグエン・バン・リンを書記長に選出した。新書記長は直ちにドイモイ(刷新)に着手した」と、アプトは振り返る。
アプトによれば、改革には引き金が必要だ。それがベトナムでは「政界トップの死」だった。北朝鮮の場合は、「破滅的なデノミ」が引き金になるかもしれない。
北朝鮮と直接経済取引をしたことのある外国人のすべてが、最近の出来事が経済改革の引き金になると確信しているわけではない。アメリカ主導の制裁が北朝鮮の資本主義の芽を摘みかねないとの懸念もある。
「問題はやはり米財務省の姿勢だ」と、そうした外国人の1人は匿名を条件に語る。米財務省は数年前から北朝鮮を「国際金融システムから排除」することで、その貿易を邪魔しようとしているという。
アメリカ主導の対北朝鮮制裁は、その後、一部緩和された。金正日(キム・ジョンイル)総書記を懐柔して核兵器開発をやめさせようとの思惑からだが、交渉は難航し、特に3月末の韓国哨戒艦沈没事件が北朝鮮によるものと断定されたことで、歩み寄りのムードはなくなった。最近の報道によれば、米政府は北朝鮮への資金流入を積極的に阻止する方向に動いている。