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「全面戦争」にちらつく出口戦略

北朝鮮 変化の胎動

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2010.09.17

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「全面戦争」にちらつく出口戦略

強硬姿勢のイメージとは裏腹に、過激な声明を弱めた思惑とは

2010年9月17日(金)12時07分
横田孝(本誌記者)

 一見、一触即発の危機に向かっているように見える朝鮮半島情勢。韓国海軍の哨戒艦「天安」の沈没事件が北朝鮮の魚雷によるものだと断定された5月20日以来、韓国と北朝鮮は南北関係を凍結するなどの措置を取り、罵詈雑言の応酬をエスカレートさせてきた。

 北朝鮮の関与が断定された当日、同国の国防委員会は事件への関与を否定し、韓国や国際社会が制裁を加えれば「全面戦争」で応じると息巻いた。確かに、不安材料はある。5月24日以来、北朝鮮の海軍基地から潜水艦4隻が姿を消しており、韓国海軍は警戒を強めている。

 だが、本当に北朝鮮は「全面戦争」を辞さないつもりなのか。表向きには、金正日(キム・ジョンイル)総書記は強気な姿勢を崩していないように振る舞っているが、水面下では「出口」を模索している兆候がある。実際、「全面戦争」の可能性をちらつかせて以来、北朝鮮のレトリックはトーンダウンしており、さらには1人の海軍幹部が既に処分されている可能性もある。

 北朝鮮の意図を分析する上で最も重要な指標である政府機関の声明文を読むと、好戦的な文言が弱められていることが分かる。対韓窓口である祖国平和統一委員会は5月21日、自国への制裁には「無慈悲な懲罰」で応じると宣言した。

 一見、強硬な態度を貫いているように受け取れるが、では「無慈悲な懲罰」とは具体的に何を指すのか。「北朝鮮政府を代弁」したとする同声明によると、南北関係と南北協力事業の全面凍結、南北不可侵合意の全面破棄らしい(これらは25日に実行された)。全面戦争とは程遠い内容だ。

 北朝鮮外務省も同日に声明を発表したが、大部分がアメリカの「敵視政策」を批判する内容で、制裁に対する報復措置には触れていない。さらに、同外務省は「朝鮮半島の非核化を堅持する立場に変わりはない」と声明を締めくくっており、外交的な解決を求めていることを匂わせている。

解任された北朝鮮海軍の最高幹部

 憤怒が冷めやらぬ韓国も、北朝鮮に「出口」を示している。何しろ韓国は今年11月に20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)、そして12年には核安全保障サミットの開催を控えているため、あまり過激な行動に出るわけにもいかない。

 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は、南北交易・交流の中断や国連安全保障理事会で北朝鮮の責任を問うといった対応を発表した一方で、北朝鮮に「謝罪と事件関係者の即刻処分」を求めた。北朝鮮の対応次第では、韓国側も事態を収拾する用意があることを示唆している。

 北朝鮮は、既にその地ならしを始めているかもしれない。天安沈没事件でまだ北朝鮮の関与が断定されていなかった5月13日、国防委員会委員の金鎰(キム・イルチョル)が「高齢」を理由に解任された。しかし、国防委員のほとんどが70〜80代と高齢のため、金鎰だけが解任されるのは不自然だ。海軍の最高幹部である金鎰を解任することで、北朝鮮はこの人事で「関係者を処分した」として事態を収拾させるための地ならしをしている可能性がある。

 確かに、南北関係を凍結させるなど、北朝鮮は強硬姿勢を崩していないように見える。だが、北朝鮮の対抗措置は李明博が発表したものと重複している部分があるため、韓国側の措置に対抗しているにすぎず、むしろ防戦的な対応をしているように映る。

 また、北朝鮮は李明博が大統領である限り韓国政府と一切交渉しないとしているが、これはむしろ中国に対して仲裁を求めるメッセージである可能性が高い。「北朝鮮側は、わずかながら徐々に態度を軟化させているようだ。事態の主導権を握ろうとしているというより、韓国の対抗措置に反応しているだけにみえる」と、元米国務省北朝鮮分析官のケネス・キノネスは言う。

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