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BP原油流出
史上最悪の環境・産業災害を招いた
深海油田探査の野望と教訓
深海油田探査の野望と教訓
塞げない穴は掘るな
不器用な遠隔操作ロボットに頼るしかない深海に穴を掘り続ける愚
メキシコ湾の海底から届くライブ映像。4月20日以来、13万キロリットルを超える原油が噴き出すこの大惨事の現場は水深1500誡の深海だ。海水温は氷点ぎりぎり。水圧は15メガパスカル。人間はこの環境に耐えられないので、パイプもバルブも油圧系統も海上からの遠隔操作で設置された。
そこに誰もいないなら、私たちが見ている映像はどうやって送られてくるのか? 遠隔操作型ロボットの目を通してだ。この6週間、水圧に耐えるよう設計された遠隔操作機(ROV)は流出個所を塞ごうと忙しく働いた。バルブをひねりホースを挟み、原油を分解する分散剤を散布。反応のない防噴装置をつつく。だが流出は止まらない。流出を食い止めるための救助井、リリーフウェル(5.5キロ)の掘削作業が終わる8月頃まで大量流出は続きそうだ。
私たちは地球に塞ぐことのできない穴を開けてしまった。原油が噴出しているパイプの穴ではない。油田のことだ。
毎月、海底には新たな穴が掘られる。天然ガス価格が高騰し、手近な油田が枯渇するなか、掘削場所はより沖合に、より深くなっている。30年前の掘削装置は水深約1500メートルでの作業が限度だったが、現在ではその倍以上の深さでの掘削が可能だ。水深3000メートルの海底から1万メートル掘り進む油田も計画されている。
深海油田には防噴装置が取り付けられている。だが今回のように、防噴装置が作動しなければそれまでだ。91メートル以上の潜水は規制で禁じられている。潜水服を着れば610メートルまで潜ることができるのだが、それでは作業ができない。となると、深海での作業はROV次第だ。
都合が悪いとロボットのせい
ROVは水深3000メートル以上の深海を自由に動き回る。関節のあるアームで溝を掘ったりパイプを鉗子(かんし)で留めたりワイヤを切断したり。米海洋技術協会は「遠隔操縦アームは人間の腕や手に匹敵する」と言う。
しかしここ数週間の様子を見る限り、英BPのROVが道具を扱うさまはぎこちない。原油が漏れているパイプを切断しようとしたが、専用のノコギリが食い込んで動かなくなり、それを取り除くだけで何時間もかかる始末だ。
BPのトニー・ヘイワードCEO(最高経営責任者)は6月4日、人間なら難なくできるはずの作業に手こずっていることを陳謝。7日には、ROVの追加投入の可否を問われた米沿岸警備隊のサド・アレン司令官が、それでは別々の作業をするROV同士がぶつかり合ってしまうという苦しい事情を打ち明けた。
BPはこのROVの不器用さを事故対応の遅れの口実にする。「水深1500メートルに人間が下りていくわけにはいかない」。BPのロバート・ダドリー取締役はテレビの討論番組でこう弁明した。「ロボットに頼るしかない。(ロボットを操作している)作業員の技能は確かだ。心臓外科手術並みの難作業に取り組んでいる」
それを外科手術というなら、傷を負わせたのは外科医自身。油田を掘ったBPはロボットでの事故対応が難しいことも人間が直接対処できないないことも分かっていた。外科医が止血できないような「穴」を開けたら、医師免許を剥奪されて当然だろう。
石油会社に甘い現行法
BPの失態から学んだ最大の教訓はこうだ──自分で塞げない穴は掘るな。人間が行けないほど深い油田を掘るならリリーフウェルを同時に掘る。リリーフウェルの掘削に金が掛かるというなら油田開発は諦めることだ。事故の後始末をロボットにさせたいなら、いま私たちが見ているものより高性能のROVを作るべきだ。