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ギリシャ型「政府債務信用不安」の実相
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ギリシャ発、福祉国家「死のスパイラル」
ギリシャ危機の元凶は手厚い社会保障の過大な負担が引き起こした負のスパイラル。同じ運命が、多くの先進国を待ち受けている
ギリシャでは今、福祉国家が陥る「死のスパイラル」が起きている。といっても、ギリシャだけの問題ではない。だからこそ、ギリシャの財政危機によって世界の株式市場が混乱し、経済危機からの復活の芽が脅かされている。
アメリカを含む事実上すべての先進国が、ギリシャと同じ現実──高齢化で医療費と年金の支出がかさみ、税収だけではまかないきれない──に直面している。今回、財政破綻の危機に陥ったのはギリシャだったが、ほとんどの富裕国に同じような未来が待ち受けている。
国家が過剰な支出や借金を永遠に続けることはできない。なのに、政府は歳出削減と増税という厳しい決断を先延ばし、自ら袋小路に入り込んでいく。
裏切られたユーロへの過剰な期待
ギリシャの財政危機は単一通貨ユーロの危機と論じられることが多いし、確かにそういう側面はあるが、それは真実のごく一面だ。
ユーロは2002年に多くの期待を背負って導入されたが、通貨統合の効果は当初期待されたレベルには程遠い。ユーロの登場によって各国通貨を両替する手間とコストがなくなり、経済成長が促進されるだろう。さらに、政治的な統合も進む。単一通貨によって「ヨーロッパ人」のアイデンティティが生まれ、ドイツ人、イタリア人、スペイン人といった区別は徐々に消えていく──。
そんな夢が語られたが、実際にはどれも現実になっていない。ユーロ圏諸国の経済成長率は1992〜2001年には平均2.1%だったのに対し、ユーロ導入後の02〜08年は1.7%。経済成長を阻む大きな要因はばらばらの通貨ではなく、税率の高さや規制の多さ、助成金の垂れ流しだった。
政治的な統合についても、ユーロはむしろ欧州を分断している。ギリシャでは暴動が勃発し、ギリシャ救済に1450億ドルを拠出した国々、とりわけドイツでは、多額の支援融資に怒りが渦巻いている。
単一通貨によってヨーロッパ人のアイデンティティが形成されるという発想は、コカコーラを飲んでいるからアメリカ人だというのと同じレベルだ。もしポルトガルやスペイン、イタリアがギリシャと同じ運命をたどれば(つまり、市場の信頼を失い、国債利回りが大幅に上昇すれば)、危機はさらに拡大するだろう。
ギリシャと他国に本質的な違いはない
問題の本質はユーロではなく、財政赤字と公的債務にある。そして、それを生み出す元凶は、失業保険や高齢者支援、医療費など近代国家が提供する社会保障制度だ。
各国ともすでに莫大な財政赤字をかかえており、その懐事情は不況で一段と悪化している。ギリシャはその度合いが際立っていたが、他国の事情もそう大差ない。ギリシャの09年の単年度の財政赤字はGDP(国内総生産)の13.6%。累積の公的債務はGDPの115%に達した。一方、スペインの財政赤字もGDPの11.2%で、累積公的債務は53.2%、ポルトガルはそれぞれ9.4%と76.8%だ(ちなみに、アメリカは算出方法が若干異なるが、それぞれ9.9%と53%だ)。
国債に投資する銀行や投資家が懸念を募らせているのは明らかだ。高齢化の進行も、先行きへの不安をあおっている。ギリシャでは、05年には総人口の18%だった65歳以上の人口が、30年には25%になるとみられる。スペインでも、高齢者人口は17%から25%に上昇する見込みだ。