最新記事

マンデラの魔法は今も健在

南ア、虹色の未来へ

アパルトヘイト撤廃から16年
驚異の成長、多人種社会の光と闇

2010.06.11

ニューストピックス

マンデラの魔法は今も健在

スキャンダルにまみれた与党ANCを90歳のマンデラはただせるか

2010年6月11日(金)12時09分
アーリーン・ゲッツ

南アフリカの父 マンデラは08年7月18日、90歳の誕生日を迎えた(東ケープ州クヌの自宅で) Pool-Reuters

ネルソン・マンデラが27年以上にわたる獄中生活から解放されたのは90年2月11日。反アパルトヘイト(人種隔離政策)運動の伝説的な闘士が釈放されるとあって大きな注目を集めたが、幸先のいいスタートは切れなかった。

 世界は彼の釈放を祝したが、ケープタウンは大荒れの状態。酔った暴漢たちが、マンデラの姿を見ようと集まった群衆に乱暴を働き、少なくとも2人の命を奪った。

 マンデラが姿を現したのは予定より4時間以上も後だった。彼の精彩を欠いた演説に人々は幻滅した。口調には覇気がなかったし、メッセージも鉱山の国有化など陳腐なものが多かった。市場はすぐに失望をあらわにした。ヨハネスブルク証券取引所では、外国人投資家による売りが殺到した。

「マンデラは、すべてのチャンスを台なしにしたわけではない」と、当時、ある政治評論家は私に言った。「だが(黒人と白人の)融和のチャンスを逃したのは確かだ」

 その後、マンデラが同じ過ちを犯すことはほとんどなかった。

 マンデラは7月18日で90歳になった。さすがに老いは隠せない。6月27日、ロンドンで開かれた彼の誕生日を祝うコンサートでは、舞台に上がるのも大変そうだった。

 しかしスピーチの声に力が入り、トレードマークの笑顔が輝いたとき、「マディバ(マンデラの愛称)・マジック」は健在だと思った。私は、彼が90年の釈放後48時間でやってのけた「マジック」を思い出した。

 マンデラがケープタウン郊外のビクターバースター刑務所から釈放されたとき、彼は幽霊のような存在だった。南アフリカ当局は、62年の投獄以前からマンデラの演説や政治活動を禁じていた。

 南アフリカで生まれた私は、本誌記者としてアパルトヘイト問題を取材していた。90年2月にマンデラが自由の身になった日、私は歓迎集会に出席したが、群衆に投げつけられたガラス瓶の破片などでけがをした。

 国外にいた人たちの大半は、彼が釈放された「2月11日」を勝利の日として記憶しているだろう。だが国内では当時、緊張が高まり、将来への不安が増していた。

白人も同じ南アフリカ人

 少数派である白人の多くは、マンデラの釈放後の演説が内戦の引き金になるおそれがあると考えていた。アパルトヘイト撤廃をめざすアフリカ民族会議(ANC)の武装闘争を支持すると、マンデラが語ったからだ。

 一方、黒人たちは、当時の白人大統領F・W・デクラークのことを誠実な人間と評したマンデラに不信感をいだいた。

 マンデラの巻き返しは、釈放の翌日に開かれた記者会見から始まった。ケープタウン大主教だったデズモンド・ツツの公邸の庭で開かれた会見は、再び期待はずれに終わる可能性もあった。集まったジャーナリストらは寝不足で機嫌が悪く、張り詰めた空気が漂っていた。

 だが、マンデラの受け答えは明快だった。打ち解けた感じでありながら、現状を正確に分析してみせた。人種融和についても明確なメッセージを発した。「白人も同じ南アフリカ人だ。彼らが身の危険を感じるような事態は望んでいない。この国に対する彼らの貢献に私たちが感謝していることを知ってほしい」

 さらに衝撃的だったのは、27年以上も獄中生活を強いられたことを恨んでいないと、マンデラが語ったことだ。

 マンデラはその後、世界を飛び回り、力強いメッセージを発して名声を確立した。94年に大統領に就任。誰もが認める南アフリカのシンボルになった。白人も、マンデラの顔があしらわれたキーホルダーを誇らしげに買ったものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中