最新記事

次期大統領は悪漢か、王様か

南ア、虹色の未来へ

イラン、インフル、ノーベル賞・・・
2009年最もお騒がせだったのは?

2010.06.11

ニューストピックス

次期大統領は悪漢か、王様か

ズールー人の異色の指導者が誕生へ。聖人には程遠いズマANC議長がもたらすのは国家の分断か、あるいは真の融和の実現か

2010年6月11日(金)12時08分
スコット・ジョンソン(アフリカ総局長)、カレン・マグレガー(ダーバン支局)

ジェイコブ・ズマ(67)のような男が南アフリカ大統領に選ばれたことはいまだかつてない。正規の教育を受けていない自称「田舎者」で、5人の妻と少なくとも20人の子供がいる。国内最大の民族集団ズールー人の出身で、結婚式など特別な機会にはズールーの伝統衣装で着飾るのが常だ。

「指導者とは傍観しない人間のことだ」と、ズマは本誌に語った。「自ら行動し、過ちを犯し、過ちを正してこそ指導者だ」

 07年12月から与党・アフリカ民族会議(ANC)の議長を務めるズマは、弁護士だったネルソン・マンデラ元大統領や、頻繁にラテン語を引用するターボ・ムベキ前大統領とは対照的だ。民族的な出自も誇示してはばからない。

 南アフリカにとって、「ある意味では彼こそが初の本物のアフリカ人大統領だ」と、ズマの親友で彼の伝記の著者でもあるジェレミー・ゴーディンは言う。「マンデラは名家の出身で、ムベキはイギリスで(教育を)受けた。ズマは生粋のアフリカ人であり、やぼったくて抜け目がない。この組み合わせが人々を引き付ける」

 同時に危険でもある。植民地支配から独立した後のアフリカ諸国では、カリスマ的な指導者が正義の名の下に国を破綻させた例に事欠かない。「ビッグメン(ボスたち)」と呼ばれるこうした指導者は、支持者により豊かな生活を約束する一方、政敵を容赦なく攻撃して権力者にのし上がった。

 ズマがその1人だといわれるのは、彼自身の態度に責任がある。何しろ選挙での自分のテーマソングにアパルトヘイト(人種隔離政策)時代のズールー人の抵抗歌「俺のマシンガンをくれ」を選ぶのだから。

 とはいえ、ズマが大統領に就任するのは時間の問題だ。4月22日の総選挙ではANCが勝利し、ズマを大統領に選出する見通しだ。

 新大統領には多くの難題が待ち受けている。経済は低迷し、都市部では犯罪が横行。HIV(エイズウイルス)感染の多さは今も深刻だし、黒人若年層の失業率は50%前後に上る。それでもズマは、自分こそ大統領にふさわしいと自信満々らしい。

 批判派に言わせれば、勘違いもいいところだ。ズマは05年、知人の女性をレイプした容疑で起訴された。翌年、合意の上の性交渉だったとして無罪放免になったが、ズマの傲慢な主張は多くの人の神経を逆なでした。相手女性がわざと丈の短い服を着て挑発したと言ったのもその1つだ。
 
収賄罪など14の容疑で起訴される可能性があったが、総選挙を約2週間後に控えた4月6日、検察当局は訴追を断念すると発表。おかげで大統領への道に残されていた最後の障害も消え去った。「国民の大多数は(検察の)決定を非常に喜んでいる」とズマは本誌に語った。そして、容疑はどれも真実ではないと強く否定した。

汚職疑惑は「推定有罪」?

 しかし最近の世論調査によれば、ズマは「有罪」だと考える人の割合は有権者の半数近くに上る。にもかかわらず、多くの人はズマを支持すると回答した。一方、野党はズマの訴追を諦めない構えで、法的手続きを進めている。

 ズマと多くの「ビッグメン」の共通点は黒い噂だけではない。恵まれない子供時代を送った点も共通している。4歳のときに父親を亡くし、母親は東部の都市ダーバンで家政婦として働いた。だが息子を学校に通わせる余裕はなく、ズマは農村で家畜番として働いた。

 親戚の勧誘でアパルトヘイトの撤廃を目指すANCに参加したのは59年。まだ10代の少年だった。その4年後、国家転覆罪で10年の懲役刑を言い渡され、マンデラも収監されていたロベン島の刑務所へ送られた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中