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「最もクールな企業」誕生の秘密

2010.05.31

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そして誰もいなくなった

瀕死の「リンゴ」を再建するにはカリスマ性のあるリーダーが必要だが

2010年5月31日(月)12時11分
マイケル・マイヤー

 初めに問題を1つ。レイオフと赤字に揺れる企業のトップがなすべきことは? 関係者の話によると、先ごろアップルコンピュータのCEO(最高経営責任者)を辞任したギルバート・アメリオの場合は、専用ジェット機の買い換えや新しい執務室の設計プランに取り組むことだった。

 自由で平等な雰囲気が売り物だったアップルにすれば、ひどいイメージダウンだ。このエピソードで、アメリオの人物評はすっかり固まった。尊大で、孤立していて、現実が見えていない----アップルの関係者は、会社全体が同じ轍を踏むことだけは避けたいと思っているはずだ。

 同社が先週発表した第3四半期の決算は、5600万ドルの赤字。第2四半期の7億800万ドルに比べれば大幅に改善された。1億ドル前後の赤字というウォール街の予想よりもいい数字だ。

 とはいえ、状況はまだ予断を許さない。ハイテク業界関係者の間では、果たしてアップルは生き残れるのか、同社を苦境から救うのは誰かが盛んに話題になっている。アップルOBのジャン・ルイ・ガセー(現Be社CEO)は言う。「アップルに必要なのはCEOじゃない。救世主だ」

経営ミスのオンパレード

 思えばアップルの歴史は経営ミスの連続だった。使いやすさに定評のあるパソコン「マッキントッシュ」をもちながら、OS(基本ソフト)のライセンス供与を渋ったせいで、マイクロソフトの「ウィンドウズ」にシェア争いで完敗したのは有名な話だ。

 元財務担当責任者のジョーゼフ・グラツィアーノによれば、特に問題なのは好条件の買収提案をことごとく蹴ったことだという。

 1994年末には、IBMが1株当たり40ドルで自社株との交換を申し入れてきた。だがグラツィアーノによると、IBMの先行きを危ぶんだアップル経営陣は、この儲け話を棒に振ってしまった。今やIBMの株価は当時の4倍近い。アップル株は半額以下だ。

 IBMは95年春にも買収をもちかけたが、アップルは応じなかった。サン・マイクロシステムズの度重なるラブコールにも、ひじ鉄を食わせ続けた。同社のスコット・マクニーリー会長は今、あのとき断られてよかったと胸をなで下ろしているという。

 最近退社した複数の元幹部によると、遅きに失したOSのライセンス供与(96年)も大失敗だった。結局は、互換機メーカーにシェアを奪われただけだったからだ(米市場におけるアップルのシェアは、2年前の11%から4%まで下がっている)。

 アップルの共同創業者だったスティーブ・ジョブズのネクスト・ソフトウェアを4億ドルで買収したアメリオの決断も、大はずれだった可能性がある。アメリオはジョブズの口車に乗せられ、役に立つかどうか怪しい技術に大枚をはたいたのだと、業界筋はささやいている。ネクストの技術力に自信を失ったジョブズが、必死に買い手を探していたという噂もある。

今なら安く買収できる?

 だが多くの業界関係者に言わせれば、アップルが犯した最大のミスはアメリオを雇ったことだ。

 就任早々、コスト削減と製品ラインの統合を打ち出したまではよかった。だが、アップルの将来ビジョンを示すという公約は、空手形に終わった。短期間で黒字に戻すという約束も果たせなかった。

 その結果、業界内では現実を見ないとか、活力や想像力に欠けるといった批判が上がりはじめた。「企業再建のプロ」という評判にも、疑問の声が噴出した。

 派手好きで役得に執着する性格も災いした。アメリオは幹部用の飛行機や執務室に強い関心を示し、自分のあて名を「博士」の一語にするよう求めた。アップルには、博士号の所有者が掃いて捨てるほどいるというのに。

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