最新記事

天才創業者の新たな挑戦

アップルの興亡

経営難、追放と復活、iMacとiPad
「最もクールな企業」誕生の秘密

2010.05.31

ニューストピックス

天才創業者の新たな挑戦

ジョブズが手塩にかけた新型パソコン、iMacがデビュー。「腐ったリンゴ」がかつての輝きを取り戻し始めた

2010年5月31日(月)12時10分
スティーブン・リービー(本誌ハイテク担当)

iMac効果 98年10月、3年ぶりの黒字転換を発表するジョブズ Reuters

 あれを見ろよ!----愛車のメルセデスを駐車場に入れながら、スティーブ・ジョブズはそう叫んだ。彼が指さしたのは、フォルクスワーゲンの新型ビートルだ。

 車を止めるのももどかしく、ジョブズは黒いビートルに駆け寄り、生まれ変わった往年の名車を子細に検分すると、結論を下した。「うん、こいつはいい出来だ」

 5月6日、ジョブズはもっと盛大な称賛を浴びた。コンピュータ史上屈指の傑作といわれる初代マッキントッシュ(マック)のリニューアル版、iMac(アイマック)を発表したのだ。

 アップルの本社があるカリフォルニア州クパチーノのフリントセンター(14年前に初代マックが発表されたのと同じ場所だ)に集まっていたのは、主に同社の従業員だった。だがこの新製品をめぐっては厳しい箝口令が敷かれており、社員ですらその存在を知る者はごくわずかだった。

 二期連続の黒字を達成した収益報告のスライドと、新型ノートマシンのパワーを誇示するデモに会場が盛り上がったところで、珍しく背広姿のジョブズが壇上に登場。暫定CEO(最高経営責任者)の彼が謎のマシンにかけられたベールをはぎ取り、クールでSF的な輝きとキッチュな遊び心をブレンドしたアイマックが姿を表すと、聴衆は文字どおり狂喜乱舞した。

 曲線基調のボディー、ややレトロなムードも漂う透明プラスチックの素材感----アイマック(出荷予定は8月)のデザインは、ここ数年世に出たパソコンのなかでも文句なしに最高だ。シリコンバレー・ドリームの元祖だったアップルが、混迷からの脱出を宣言した胸躍るメッセージでもある。

 10カ月前、43歳のジョブズがアップルの経営陣に復帰したとき、世間は瀕死のアップルが見せた最後のあがきと受け止めた。はったり上手なジョブズの「魔力」があれば、どこかに身売りするときも買いたたかれずにすむのではないか、と。

暗黒だったアメリオ時代

 ところが最近、アップルの社内からしばらく耳にしなかった言葉が聞こえてくるようになった。利益。安定。成長。マックを起動したときに出てくる「にっこりマーク」が、ようやく真の笑みを浮かべられるようになったといえる。

 1年前のアップルは「死へのらせん階段を下っていた」と、同社の最高財務責任者フレッド・アンダーソンは言う。半導体メーカーからスカウトされた当時のCEO、ギルバート・アメリオは、コスト削減や品質改善では一定の成果を上げたが、アップルという会社の経営にはひどく不向きだった。

 それは単に、アメリオがアップルの自由な----ときには自由すぎる----社風と合わなかったからではない。彼には、アップルが時代にどう適応してゆくのかを語る力がなかった。ましてや未来の展望など、望むべくもなかった。最近出版されたアメリオの回想録の索引には、「インターネット」という項目さえない。

 昨年の7月4日、アメリオはアップルの取締役会から解任を言い渡された。そのころアップルの赤字はふくれ上がり、社員の士気は地に落ち、長年のマック信者までがウィンドウズの入門書と格闘しはじめるありさまだった。

 そこで表舞台に担ぎ出されたのが、ジョブズだった。彼の経営するソフトウエア会社「ネクスト」を1996年にアップルが買収して以来、ジョブズはアメリオの相談相手を務めてきた。

 当時ジョブズが最も力を注いでいたのは、自ら経営するデジタルアニメーション・スタジオ、ピクサー社の事業だった。映画『トイ・ストーリー』の大ヒットで同社の株は高騰し、大株主のジョブズは莫大な利益を手にしていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、欧州PMIでユーロ一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中