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外国人の匠が語る日本文化の面白さ
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4次元の「小さな木」を追い求めて
マルコ・インベルニッチ(盆栽アーティスト)
スリムな長身に長めの黒髪、サングラスに重ねづけしたシルバーのネックレス。一見すると、今どきなラテン系の遊び人といった風貌で、マルコ・インベルニッチ(32)は現れた。
待ち合わせ場所は銀座のしゃれたイタリアンレストラン----ではなく、小さな盆栽店。着いて早々、インベルニッチは店先を見回すと、「これけっこう面白いよ」と言って、根が石にからまり、幹が力強くカーブした五葉松を指さした。「盛岡の近くにそっくりな場所がある。岩場ギリギリに松が生えていて、下のほうに低い木があって。厳しい自然に挑むような木の姿がたまらないね」
ミラノを拠点とする盆栽家のインベルニッチにとって、盆栽はガーデニングの延長ではなく、あくまでもアートだ。「イタリアは昔から石の文化の国。石の建築や彫刻は一度作ったら何百年たっても変わらない」と彼は言う。その点、盆栽はアーティストの成長に応じて変わり、他者の手に渡った後もうまくすれば数百年でも進化し続ける。完成することのない芸術に、ミケランジェロやラファエロの世界にはない魅力を感じた。「彫刻のような立体に、時間という要素が加わった4次元のアートだ」
16歳のとき初めて手にした盆栽も、いまだにミラノのスタジオで4次元を漂っている(クリスマスに母親からもらったガジュマルだ)。当時テレビで映画『ベスト・キッド3』を見たインベルニッチは、普通なら空手に夢中になるところを、なぜか空手の達人ミヤギが育てる盆栽に一目ぼれした。「心臓を撃ち抜かれたように、これこそ僕のアートだと感じた」
以来17年間、彼は芸術への情熱と野心を「小さな木」に注いできた。ミラノのイタリア人盆栽家に師事した後、21歳で来日。インベルニッチが「世界一の親方」と呼ぶ著名な盆栽家、木村正彦の初の外国人弟子として4年間修業した。「器用で頭もいい。いちばん大事な感性もちゃんともっていた」と木村は語る。「外国から修業に来る者は心構えが違う。1日でも休めば損をするという感じです」
帰国して7年たつ今も親方に学んだ技を忠実に守り、作風も基本は伝統的な日本スタイル。重要なのは目新しさではなく、「鉢植えの老成した木を通して、自分が自然をどうとらえているかを表現すること」だと考えている。
しかし同時に、盆栽の未来を切り開く使命感も強い。07年に立ち上げたウェブサイトでは、自ら宇宙飛行士からフラメンコダンサーまで多彩なコスプレ姿で登場。肝心の盆栽がかすむほどポップな仕立てだが、その裏には「若者に盆栽を身近に感じてほしい」という思いもある(身近かどうかは別として、従来の盆栽家のイメージが吹き飛ぶのは確かだ)。
講義やワークショップも、イスラエルから南アフリカまで世界各地で精力的に行う。最近日本で人気のミニ盆栽や苔玉も、最初の入り口としてはいいと寛容だ。
ただし自分にとって理想の盆栽の条件は、「老成した木に見えること」と「自然の情景に基づいていること」。それもただの自然ではなく、厳しい環境で変形したり険しい山頂で懸命に枝を伸ばす木の姿が好きだ。
インスピレーションを得るため、時間を見つけては珍しい木を探しに旅に出る。取材中、夏に訪れたマダガスカルの写真を見せてくれた。広い平地から天に伸びる手のようなバオバブの木。こんな盆栽は?「ありだと思う。自然に存在する木の情景だから。ただし、古い木に見えないとダメだけどね」
そんな作品が世界で評価されたとき、盆栽は新たな進化を遂げるかもしれない。
[2008年10月15日号掲載]