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【12】AIGを潰したのは、クレジット・デフォルト・スワップ。
08年9月、米投資銀行大手リーマン・ブラザーズ破綻の翌日に米政府の管理下に入った米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)。09年3月までに計4回、約1800億ドルもの公的支援を受けながら、幹部社員に計2億1800万ドルの高額ボーナスを支給してアメリカ国民を激高させた。
そのAIGを一夜にして窮地に追い込んで有名になったのが、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれるデリバティブ(金融派生商品)。金融機関が貸し倒れ損失を避けるために開発された一種の保険で、金融機関はAIGに保険料を支払う代わり、万一貸し倒れが起きれば元本を支払ってもらう契約だった。
サブプライム危機で損をした金融機関が支払いを求めて駆け込んできたが、当時、AIGがCDSで支払いを保証していた額は自己資本の5倍以上の4400億ドルにも達していた。もし保証ができないということになれば、世界の金融機関に貸し倒れが広がり、信用不安に火が付きかねない。著名投資家のウォーレン・バフェットがCDSを「金融版の大量破壊兵器」と呼んだのも、こうした危険を見越していたためだ。
90年代後半にアメリカの投資銀行が商品化したCDSは、金貸し業にそもそもの始まりから付きまとってきた貸し倒れリスクから銀行を解放し、手元の資金をどんどん貸し出しに回せるようにしてくれる画期的な商品と見なされた。JPモルガンの専務取締役としてCDSの誕生に立ち会ったマーク・ブリッケルは、これを原爆級の発明に例えたほどだ。実際、00年に1000億ドルだったその市場規模は、07年末には約62兆ドルに拡大した。
リスク回避のために作られたCDSが、なぜ大量破壊兵器になってしまったのだろうか。1つは銀行や住宅ローン会社の側が、CDSで保険さえ掛ければ安心とばかりに、返済能力のない人に無謀な貸し出しを増やしたからだ。
こうした危ない住宅ローンを担保にした住宅ローン担保証券を購入した投資家も、投資対象の中身を吟味する代わりにCDSを買うことでリスクを回避したと錯覚した。CDSを口実に、リスク度外視の投資が雪だるま式に膨らんでいったのだ。
一方、世界中でCDSを販売したAIGのほうは、契約者が一斉に保険契約の履行を求めてくる事態を想定していなかった。だが、住宅バブルの崩壊で住宅ローンが一斉に焦げ付き、住宅ローンの証券化商品が相次いで債務不履行に陥ると、AIGの支払い能力を超える請求が舞い込んだ。
CDSのもう1つの問題は、企業対企業の個別の契約で外からは条件が分からない上、どんどん転売されていくため、取引実態や市場価値が把握できないこと。またどこで爆発するか分からない、と言われているのもそのためだ。
米政府はCDSの清算機構を作り、取引が公正に行われるようにしようとしている。うまくいけば、貸し倒れリスクに対する保険という目的どおりの、怖くも何ともない金融商品になるだろう。
[2009年4月15日号掲載]