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著名人・スターの軌跡
パトリック・スウェイジ(アメリカ/俳優)
『ゴースト/ニューヨークの幻』など多数の映画に主演。87年の『ダーティ・ダンシング』では女性ファンが映画館に通いつめて一種の社会現象に
戦い続けたスター すい臓癌を患い闘病生活を続けていたが、合併症のため9月15日に57歳で死去(写真は03年当時) Reuters
ポーラ・R(仮名)、40歳。映画『ダーティ・ダンシング』の熱烈なファンだ。彼女はこの映画をすでに8回も見ている。そのくせ、やめようと思えばいつでもやめられるなんて、強がりを言っている。「25回も見れば、きっと飽きるわよ」というポーラは、どうみても自分を見失っている。典型的な「中毒症状」を起こしていることに気づいていないのだ。
一部の批評家は、この映画を単なる夏休み向け娯楽映画と片づけた。ところが、ここにきて一部ファンの間で異常な人気を呼んでいることが判明したのである。
63年ごろのニューヨーク州東部の保養地を舞台に、育ちのまるで違う2人のロマンスを描いたこの映画は、全米各地の映画館で今でも上映中だ。それほどの人気になったのは、おそらく何度も飽きずに見に来る観客たち----そのほとんどは女性----がいるからだ。
たとえば、ミシガン州に住むマロリー・ロングワース。彼女はこの映画をときには1日に2回も見に行くようになってから、20キロ以上ものぜい肉を落とした。「食事の代わりに映画を見ていたから」と、ロングワース。彼女は最近、125回目の記録を達成したばかり。
抗しがたい主役スウェイジの魅力
ベストロン映画社が600万ドル以下の製作費で作ったこの作品は、すでに5000万ドル以上の売り上げを記録している。映画のサントラ盤も、マイケル・ジャクソンやブルース・スプリングスティーンを抑え、300万枚以上を売って全米1位を6週間維持した。ファンは映画入場券の半券を靴の箱の中に集めたり、スクラップブックに貼ったり。2万5000枚刷った主役パトリック・スウェイジのポスターはたちまち売り切れた。
セクシーなダンスのインストラクターを演じるスウェイジ本人は、まだ普通の映画館でこの映画を見ていない。理由は簡単だ。「一度ハリウッドの映画館で見ようとしたら、大変な騒ぎになった。とにかくあわててその場を逃げ出したんだ」
ファンの異常な興奮ぶりは、スウェイジ夫妻の人生を変えてしまった。スウェイジの妻で女優のリサ・ネイミは言う。「夫を誰かに紹介したとするわ。女性なら、ぼうっと夢見心地で見つめるだけで、何もいえなくなるの。先日も慈善パーティーの席で、72歳になるおばあちゃんが言ってたわ。パトリックにひと目会えば、もう思い残すことはないって。映画は18回も見たそうよ」
今年35歳のスウェイジは、バレエ団に所属していたこともあり、ソ連出身の偉大なダンサーたちの下で修行を積んだ。スウェイジは社交界の作法こそ身につけていないが肉体的には優雅そのものの、キャッスルという青年の役を演じる。彼にはうってつけの役柄と言っていい。キャッスルは、過保護なユダヤ系の家庭に育ったキュートな女の子ベイビー(ジェニファー・グレイ)に、ダンスとセックスの二重の喜びを教え込む。
バレエで会得した女性の引き立て方
ポーラ・Rによれば、現代の多くの女性にとって「キャッスルみたいに官能的な男は強烈な衝撃なの。それまでに経験した男性とあまりにも違うので、どうしようもなく引かれてしまう」そうだ。ロサンゼルスでフリーライター兼小説家として活躍中のイブ・バビッツは、この映画を30〜40回は見たと言う。彼女はちょっと大胆に、こう言い切る。「これは女性のために作られた初のポルノ映画なのよ」