最新記事

コイズミ「求愛劇場」の終幕

日米関係
属国か対等か

長年の従属外交を脱して
「ノー」といえる関係へ

2009.11.10

ニューストピックス

コイズミ「求愛劇場」の終幕

ブッシュ=小泉の蜜月時代が終われば、2国間関係は冬の時代に突入する?

2009年11月10日(火)12時38分
リチャード・ウルフ(ワシントン)、横田孝(東京)

 ジョージ・W・ブッシュ米大統領と日本の小泉純一郎首相は、どうしてこんなに親しくなったのか。この問いをホワイトハウス当局者に投げかけると、驚くほど単純な答えが返ってくる。

「すべてはキャッチボールから始まった」と、米政府のある高官は言う。「最初からウマが合った。一つには、2人とも野球好きで、話が合ったからだ」

 ベースボールで幕を開けた関係は、エルビスで幕を閉じようとしている。9月の退任を前に先週訪米した小泉に対して、ブッシュが用意したお別れのプレゼントは、小泉の大好きなエルビス・プレスリーの曲を収めたジュークボックスとプレスリーの生前の邸宅「グレースランド」(テネシー州メンフィス)のツアーだった。ブッシュは大統領専用機エアフォース・ワンで一緒に現地入りし、自らグレースランドを案内した。

 この破格の待遇に対して、小泉はプレスリー邸でサングラスをかけ、プレスリーの娘リサ・マリーの肩を抱いて、このロックスターの曲の一節を次々と口ずさんでみせた。共同記者会見では、会見の締めくくりにプレスリーの曲を引用して、アメリカの人々が「やさしく愛して(ラブ・ミー・テンダー)くれた」ことを感謝した。

知日派高官の抜けた穴

 2人の蜜月関係は、過去5年間の日米関係の土台だった。しかしそれは、2人の看板役者が舞台を去れば不安材料になりかねない。

 しかも、日米関係を支えてきた知日派の米高官が続々と政権を去っている。ポスト小泉が誰になっても、ブッシュ=小泉時代のような関係を維持できるとは考えにくい。

 ブッシュと小泉の間柄がここまで親密になるとは、誰も思っていなかった。00年の米大統領選に名乗りを上げたころのブッシュは、日本よりも中国を重視していた。

 あのキャッチボールも、本来は予定していないものだった。01年6月の小泉訪米に先だつ両国事務方の折衝は、ブッシュが小泉に野球のボールとグローブをプレゼントすることでまとまったが、キャッチボールはしないはずだった。

 しかしブッシュは、部下の言葉を無視して、カメラの前で小泉とキャッチボールをしてみせた。このキャンプデービッドの大統領別荘の会談で築いた信頼関係は、3カ月後に大きな意味をもった。

 9・11テロの直後、小泉はただちにアメリカへの支持を表明し、インド洋に海上自衛隊を派遣。続いて、イラクにも部隊を送った。この強力な支持は、アメリカの同盟国のなかでも突出していた。

 こうした日本政府の姿勢は、北朝鮮の脅威への対応という形で報われた。98年のテポドン発射への米政府のあいまいな対応とはうって変わって、北朝鮮が再びミサイルを発射すれば厳しい態度で臨むと、ブッシュは言いきった。

 ブッシュにとって、安全保障問題で共同歩調を取ることは、小泉と価値観を共有していることの反映にほかならなかった。「(首相は)普遍的な価値観を強固に信じている」と、ブッシュは先週も小泉をたたえた。「首相は自由を信奉していて、そうした信念に基づいて行動する意思をもっている」

 両国政府は先週、日米の特別な関係は将来も続くと保証し合うことに時間を割いた。会談後、両首脳は合意事項を「新世紀の日米同盟」と題した共同文書にまとめて発表。その中には、日本の国連安保理常任理事国入りをアメリカが支援するという内容も盛り込まれている。80年代の日米通商摩擦も最近の牛肉輸入問題も、記憶のかなたの出来事のようにみえた。

 しかし机上のお題目をよそに、実務レベルでは日米同盟を築いてきた米高官が退任している。リチャード・アーミテージ元国務副長官や、ホワイトハウスでアジア外交を取り仕切ったマイケル・グリーンは、もう政権にいない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中