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湾岸戦争、90億ドルは仕方がない

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2009.11.10

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湾岸戦争、90億ドルは仕方がない

巨額の追加支援をめぐって平和ニッポンの世論が分裂する

2009年11月10日(火)12時31分

「みんなで痛みを分かち合おうということだ」。海部俊樹首相は先週末、こう語った。

「痛み」とは、湾岸の多国籍軍に対する追加支援として、約束済みの40億ドルに加えて90億ドル(約1兆2000億円)を拠出することと、難民移送のために自衛隊の輸送機を派遣する計画を指す。

 この決定の背景にあるのは、今回の戦争に日本はほとんど無関心だというアメリカ国内の批判である。このあたりで日本なりに存在を主張しておかなければ「世界で孤立するおそれがある」(海部首相)と、日本政府は考えた。

 ジョージ・ブッシュ米大統領はすかさず海部首相に電話をかけ、日本の支援策に謝意を表した。そして米会議における日本の株も、たちまち上昇に転じた。

 海部も自民党も、日本が託しがたいただ乗り国家として国際的に批判される事態は避けがたいところ。ただ国民がそのあたりを理解してくれるかどうかが、海部をはじめとする自民党首脳の悩みである。

 かつて「国連平和協力隊」の創設が国会で問題になったとき、海部は世論の動向と自らの政治力量を見事に読み誤り、法案は不成立に終わった。これに懲りて今回は、自衛隊法第100条に基づき、政令によってC130輸送機を派遣し、国会論議を回避しようとしたのである。

 補正予算として支出される90億ドルの追加支援は、衆議院で自民党が多数を占めているだけに問題はあるまい。だが、その資金を調達するために予定している増税(ガソリン税とタバコ税が有力)に関しては税法の改正が必要であり、野党が支配する衆議院で難航することが予想される。

 航空自衛隊史上初の海外任務となる今回の難民輸送計画について、民社党を除くすべての野党は激しく反発している。国民世論も、日本が湾岸戦争そのものにかかわるべきか否かでは、今なお完全に分裂している。

 先週、テレビ朝日が行った世論調査によれば、追加援助を行うべきかどうかの問いに対しては、37.2%で「ノー」の回答が一番多かった。追加援助を認める人は30%弱で、24.9%が「仕方がない」と答えている。

 90億ドルの追加支出は、国民一人当たりにならすと70ドル強(約1万円)。だが新聞などで見るかぎり、この程度のささやかな額でも日本人には過大な犠牲と映るらしい。

 とはいえ、アメリカは日本にとって一番の同盟国だし、最大の貿易相手国である。したがって、日本政府のこうした努力もアメリカ向けには必要なジェスチャーだろうとみる国民も決して少なくない。「90億ドルはすごい額だけど、日本としては払うべきじゃないかしら」と東京の主婦、土場茂子(49)は言う。「日米関係の将来を考えると、そのくらいの出費は仕方ないと思う」

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