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不機嫌な中国のアメリカ離れ幻想
中国とアメリカの結婚は失敗だった、離婚すべきだ――新たな愛国主義的主張が政策を動かし始めた
『中国不高興(不機嫌な中国)』――中国でベストセラーになっている本の題名だ。愛国主義者の著者5人は、今こそ中国は「西側とたもとを分かつ」時だ、と主張する。特にアメリカ、そして中国政府が1兆ドルも保有している米国債から離れなければならないと。
アメリカと距離を置こうとする中国人の願望は、日増しに強まっている。6月に国際ニュース紙「環球時報」が報じた同紙の世論調査では、87%が中国のドル建て資産の安全性を疑問視していた。
ティモシー・ガイトナー米財務長官が5月末に訪中する直前には、中国を代表するエコノミストを対象にした調査で、23人中17人が米国債は「リスキー」で、アメリカ株も中国経済の潜在的な脅威になっているので、中国政府は運用資産に占めるアメリカの割合を減らしてエネルギーや鉱物資源を増やすべきと答えた。
北京大学で講演したガイトナーが米国債は「安全だ」と請け合うと、聴衆からはどっと笑いが起こった。中国のエリート層としては珍しく、礼を失した反応だ。
中国人の独立志向の高まりは、世界の市場を揺るがしている。世界経済はまだ足腰が定まらず、本格回復は中国が引き続き西側諸国の国債を買ってくれるかどうかにかかっている。なかでも米政府の借金は、大型の景気刺激策のせいでますます膨張している。
中国が資金を引き揚げるかもしれないという不安から米金利はここ数週間で急騰し、6月半ばにイタリアで開かれた主要8カ国(G8)財務相会合も、当初予定された景気対策ではなく、膨らんだ借金をどう返すかに焦点を移さざるを得なかった。
6月上旬に訪中したマーク・カーク米下院議員(共和党)は、感触を次のように語った。「中国は、米議会に発行したクレジットカードを無効にしようとしている。アメリカにはもうこれ以上金を貸したくないということだ」
幸いなことに、安定が損なわれることを何より恐れる中国の指導者は、アメリカ経済からの独立という大衆迎合的な考えにはくみしていない。胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席も温家宝(ウェン・チアパオ)首相も、中国製品最大の輸出先で対中投資額も大きいアメリカと突然縁を切るのは自殺行為だという認識をはっきりと示している。
迎合的「バイ・チャイナ」
温が3月にドル建て資産の安全性を心配していると言ったのは確かだが、それは最大の借り手と運命共同体になった貸し手としての発言で、恋人を振って部屋を出て行ったわけではない。
だが中国の経済的独立、という大衆的な幻想は、現実の世界に影響を与えている。金融危機が起こるまで、中国はアメリカ企業を模範にしていた。ウォール街の巨大金融機関は中国の国有銀行に「リスクにどう値付けするか」といった現代銀行業の魔法を教えようとした。だが今は、中国の国有銀行のほうが安全のように見えるし、アメリカ型モデルについて語る中国人もいなくなった。
中国政府は、株式市場や債券市場を一段と外資に開放する計画を棚上げにした。ポピュリズムに突き動かされた政治家たちは国内に気を取られ、例えば景気刺激策に伴う政府調達には中国製品を優先的に買う「バイ・チャイニーズ」を義務付けた。アメリカが推進してアメリカに大きな富をもたらした過去30年間のグローバル化に対する風当たりは強まるばかりだ。
だが中国政府指導部は理解しているようにみえる。グローバル化でアメリカの次に大きな利益を挙げたのは中国だということを。
5月の輸出は前年同月比で25%以上落ち込んだとはいうものの、中国は今も年間2000億謖近いペースで対米貿易黒字を稼いでいる。中国がGDP(国内総生産)の4%にもなる世界最大の景気刺激策を打ち、世界的な景気後退の中でも比較的好況を維持していられるのも、その金があるからだ。
中国政府が今のところドル離れと分散投資に及び腰なのも驚くにあたらない。本気でやれば、アメリカ人が中国製品を買うのは難しくなる。