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金融危機クロニクル
リーマンショックから1年、
崩壊の軌跡と真因を検証する
ビッグスリー、株価暴落で破綻危機
金融危機の煽りで自動車販売が冷え込むなか、赤字で手元資金を食い潰すビッグスリーに市場が売りを浴びせ始めた
デトロイトは資金も時間も使い果たしつつある。米自動車業界にとって暗黒の時代だったこの10年、経営破綻の噂は加速する一方だった。そして今、業界は完全なパニック状態に陥っている。10月10日付のデトロイト・ニュース紙は「自動車不安高まる」という大見出しを掲げた。
それも道理だ。ゼネラル・モーターズ(GM)とフォードの株価は今や紙切れ寸前。株式市場は、巨額の赤字を垂れ流す両社の資金が早晩底を突き、燃費のいい車種を売り出す予定の2010年まで生き残れないかもしれないと判断している。
格付け会社のスタンダード&プアーズ(S&P)によれば、アメリカ最大の自動車メーカーGMの資金は来年中にも底を突きかねない。水面下では、業界再編による必死の生き残り策も検討されている。10日と11日には相次いで、GMがクライスラーと合併交渉を行っていることや、それ以前にはフォードとも話し合いをしていたことが明らかになった。だが「ビッグスリーが無事に09年を乗りきれる確率はどんどん低くなっている」と、自動車アナリストのジョン・カセサは言う。
経営破綻はまさに「今そこにある危機」になった。ただでさえ衰弱していたアメリカの自動車業界はウォール街を炎上させた大火のあおりを受けている。GMの株価は10月9日に3割近く下落し、4・76ドルまで落ち込んだ。テールフィン(自動車後部のとがった部分)がまだ目新しく、ハリー・トルーマンが大統領だった1950年以来の安値だ。フォードの株価は10日に2ドルを切って1・99ドルになった。
債券市場では、GMとフォードの社債が額面の25〜30%の価格で売買されている。「会社が破綻すると市場がみなしていないかぎり、社債の価格は30%まで下がらない」と、信用調査会社ギミ・クレジットのシニアアナリスト、シェリー・ロンバードは言う。
デトロイトの業績不振は、もとは自業自得だった。いつまでも大型車に依存し、ガソリン価格が1ガロン(約3.8リットル)=4ドルに上がると顧客をトヨタ自動車に奪われた。だが、この数週間の金融危機で様相は一変した。自動車ローンが干上がり消費者心理も冷え込んで、アメリカではトヨタを含むあらゆる自動車メーカーのショールームから客足が一気に遠のいた。
戦争に次ぐぐらいの惨状
9月のアメリカの自動車販売台数は前年比23.5%減少し、世界的にも市場は壊滅状態になると、アナリストたちは警告する。ガソリンの平均価格は7月の4.11ドルから3.35ドルまで下がっているが、ほとんどなんのプラス効果ももたらしていない。「米自動車業界にとっていま以上に悲惨な状況といえば、アメリカ本土での戦争ぐらいしか思いつかない」と、カセサは言う。「もっとも、デトロイト製の戦車が売れるだけ、戦争のほうがましかもしれないが」
それでも、デトロイトを破綻に追い込むのは株や社債の投げ売りではないだろう。個人の場合と同じく、破産するのは資金繰りが行き詰まったときだ。
アナリストによれば、そのリスクが最も高いのは、毎月10億ドルかそれ以上の巨額の赤字を出して手持ち資金を食いつぶしているGMだ。GMには、ざっと210億ドルの手元資金があるし、9月には既存の信用供与枠から資金を引き出すなどして40億ドル近くを調達した。だが営業経費だけで年に110億〜140億ドルかかり、来年末までに資金は10億ドルを切るだろうと、シティグループは試算する。
フォードにはやや余裕がある。06年に、工場やオフィス、フォードの商標まで、文字どおり会社を丸ごと担保にして借りた234億ドルがあるからだ。
今では、ビッグスリーにお金を貸す金融機関はどこもない。S&Pが9日にGMとフォードの格付けをジャンク債のなかでもさらに引き下げる可能性を発表した後ではなおさらだ。クライスラーは117億ドルの手元資金があると言っているが、07年に投資会社サーベラス・キャピタル・マネジメントに買収されて株式非公開企業になっており、確かめるすべはない。
当然のことながら、3社はそろって破綻の可能性を否定する。「連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の申請はわが社の選択肢にはない」と、GMの広報担当者レネ・ラシド・メレムは言う。そして3社とも、現金を節約するため猛烈な勢いで従業員を削減し、工場を閉鎖している。GMは本社ビルの売却も検討中だ。
だが、最終的に破産申請にいたるかどうかを決めるのは、ビッグスリーの経営陣ではないかもしれない。資金がなくなり借金の返済ができなくなれば、会社は債権者たちの手で裁判所にほうり込まれるだろう。
破産申請は会社更生の第一歩だが、デトロイトでは死と同一視されてきた。破産した会社の自動車など誰も買わない、というのが業界の通念だからだ。だが、どのみち車を買う人がほとんどいない今は、米自動車業界にとって経営再建のいい機会とみることもできる。
「車を買う人が少ない今なら、失うものも少ない」と、自動車アナリストのマリアン・ケラーは言う。「今こそ破産申請し、より小規模で焦点を絞った会社として生まれ変わる時ではないか」