最新記事

愛なきジャパン・バッシング

外国人作家が愛した
日本

旅行記からSFまで――新視点で
読む 知られざるこの国の形

2009.08.07

ニューストピックス

愛なきジャパン・バッシング

「精神異常」「うぬぼれ屋」の言葉が踊るショッキングな日本批判

2009年8月7日(金)12時57分
コリン・ジョイス

 迷宮のような新宿駅で迷子になったせいか、料理屋でイカの肝を出されたせいなのか。外国人観光客の一定数は必ず日本嫌いになる。

 ユーラシア大陸を横断する鉄道旅行の最後に日本へやって来たポール・セルーもその1人。セルーは『鉄道大バザール』(邦訳・講談社)で、いきなり日本は不気味だと決めつけている。「何の匂いもしない電車に不安を覚えた」

 日劇ミュージックホールでSMまがいのショーを見て、江戸川乱歩を読み、日本人は変態だと確信する。京都はまずまず気に入ったが、それも少しの間だけ。LとRの発音をまちがえる人たちを嘲笑し、彼らの礼儀正しさを「バカにされている気分」と切り捨てる。

 セルーは「自分」を前面に出すことで紀行文学に新しい息吹を吹き込んだ。この日本滞在記でも、問題の半分は長旅でノイローゼぎみだった自分にあると認めている。

 一方、日本人は「正真正銘の精神異常」と断言するイギリス人コラムニストのAA・ギルに、セルーのような自省はない。ギルは02年、タイムズ紙日曜版で「日本はおぞましい歴史と下劣な哲学と抑えつけられた文化の上に建設された精神病院」と主張。この文章は後に『AA・ギルは旅行中』に収録され、単行本化された。

 このショッキングな日本批判には、本国イギリスでも怒りの投書が殺到。読者はギルを人種差別主義者とののしった。

 ギルによれば芸者はホステス、竜安寺の石庭は「お笑いぐさで、中世のがらくた」。日本人は魅力に欠けるうぬぼれ屋で、日本の宗教には「慰め」も「救い」も「個人という概念」もないという。

 ギルの日本観は、多くの誤解に基づいている。ヤクザは「現代のサムライ、大衆のヒーローと思われている」そうだし、漫画の大半は幼児レイプを扱っているらしい。

 ギルは結論部分で、日本人は愛を知らないとまで言いきった。筆者のほうこそ、人を愛する能力が欠落していると思えてくる。

[2005年5月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

製造業PMI11月は49.0に低下、サービス業は2

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ

ワールド

ロシア発射ミサイルは新型中距離弾道弾、初の実戦使用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中