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愛なきジャパン・バッシング
「精神異常」「うぬぼれ屋」の言葉が踊るショッキングな日本批判
迷宮のような新宿駅で迷子になったせいか、料理屋でイカの肝を出されたせいなのか。外国人観光客の一定数は必ず日本嫌いになる。
ユーラシア大陸を横断する鉄道旅行の最後に日本へやって来たポール・セルーもその1人。セルーは『鉄道大バザール』(邦訳・講談社)で、いきなり日本は不気味だと決めつけている。「何の匂いもしない電車に不安を覚えた」
日劇ミュージックホールでSMまがいのショーを見て、江戸川乱歩を読み、日本人は変態だと確信する。京都はまずまず気に入ったが、それも少しの間だけ。LとRの発音をまちがえる人たちを嘲笑し、彼らの礼儀正しさを「バカにされている気分」と切り捨てる。
セルーは「自分」を前面に出すことで紀行文学に新しい息吹を吹き込んだ。この日本滞在記でも、問題の半分は長旅でノイローゼぎみだった自分にあると認めている。
一方、日本人は「正真正銘の精神異常」と断言するイギリス人コラムニストのAA・ギルに、セルーのような自省はない。ギルは02年、タイムズ紙日曜版で「日本はおぞましい歴史と下劣な哲学と抑えつけられた文化の上に建設された精神病院」と主張。この文章は後に『AA・ギルは旅行中』に収録され、単行本化された。
このショッキングな日本批判には、本国イギリスでも怒りの投書が殺到。読者はギルを人種差別主義者とののしった。
ギルによれば芸者はホステス、竜安寺の石庭は「お笑いぐさで、中世のがらくた」。日本人は魅力に欠けるうぬぼれ屋で、日本の宗教には「慰め」も「救い」も「個人という概念」もないという。
ギルの日本観は、多くの誤解に基づいている。ヤクザは「現代のサムライ、大衆のヒーローと思われている」そうだし、漫画の大半は幼児レイプを扱っているらしい。
ギルは結論部分で、日本人は愛を知らないとまで言いきった。筆者のほうこそ、人を愛する能力が欠落していると思えてくる。
[2005年5月18日号掲載]