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ビッグスリー
転落の構図
世界最大のGMも陥落へ
米自動車20年間の勘違い
ファンドが買ったクライスラー 常識外れの再建策
企業再建ファンド、サーベラスの奥の手とは、資産の切り売りでもリストラでもなく、車の自社生産をやめることかもしれない
自動車生産も外注する時代? 07年、クライスラー車の組み立てライン
Rebecca Cook-Reuters
ヘンリー・フォードは1920年代にミシガン州ディアボーンの巨大なリバールージュ工場で、一貫生産・大量生産という自動車産業の基礎をつくり上げた。河川の合流地点にある敷地の片側では鉄鉱石やゴムなどの原料を満載した貨物船がドック入りし、その場で自動車用に加工する。そして反対側にある組立工場からは、49秒に1台のペースで黒く輝くA型フォード(T型フォードの前身)が吐き出されてくるのだった。
インターネット時代の夜明けには、マイケル・デルが製造業に新しいモデルをもたらした。デル社のパソコン生産にはものの数分しかかからない。回路基板や躯体、メモリーなどの中核部品はサプライヤーに作って届けさせ、後は組み立てるだけだからだ。ただし車は黒塗り以外つくらなかったフォードと違い、デルは顧客が希望するスペックどおりのパソコンを受注生産する。コンピュータ企業のあり方を再定義したデルの功績は歴史に残るものだ。
今、クライスラーの新オーナーとなるサーベラス・キャピタル・マネジメントは、自動車企業の何たるかを再定義すると宣言している。5月14日、企業再建の手腕と秘密主義で知られるウォール街のプライベートエクイティ(未公開株)ファンドが74億ドルでダイムラークライスラーのクライスラー部門を買収することが明らかになると、デトロイトにはさまざまな憶測が乱れ飛んだ。
車の自社生産をやめよう
サーベラスは、クライスラーの再建を通じて従来のデトロイトにはなかった新しいビジネスモデルをつくり上げるとみられている。現にヘンリー・フォードのモデルを今も引きずるゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、クライスラーのビッグスリーは、06年に合わせて160億ドル以上の赤字を出した。「クライスラーだけでなく、デトロイト全体の流れを変える事件だ」と、自動車アナリストのジョン・カセサは言う。
だが、過去15カ月で35億ドルの赤字を出したクライスラーをいかにして再建するのか。経営者のクビを切るのではない。クライスラーのCEO(最高経営責任者)、トム・ラソーダは留任する。さらなる人員削減もしない。ラソーダがすでに決定した1万3000人の人員削減で打ち止めにすると、サーベラスの創業者スティーブン・ファインバーグは労働組合に口頭と書面の両方で約束した。
サーベラスはそれよりも、業界の常識を覆すような疑問を呈して瀕死の米自動車業界に活を入れようとしていると、業界関係者は言う。「そもそも、自動車会社はすべての車を自社生産する必要があるのか」、というのがそれだ。
この問いは、業界を一変させる可能性を秘めている。ビッグスリーは今、乗用車からトラックまで各社があらゆる種類の車をつくり、その大半で赤字を出している。それよりは、利益の出る車だけを自社生産し、後は開発とブランドで稼ぐ会社になれないか。顧客が気にするのはしょせん製品とブランドと価格だけ。誰が生産したかは気にしない。それなら、開発して売ることに専念すればいい。
デトロイトでは異説かもしれないが、家電業界やパソコン業界ではよくあることだ。GMがクライスラー・ブランドのSUV(スポーツユーティリティー車)をつくり、クライスラーがGMブランドのミニバンをつくっていけない理由がどこにあるのか。