コラム

中国外交トップ「チンピラ発言」の狙いは自分の出世?

2021年03月23日(火)12時33分

恥を忍んでアラスカへ飛んで行ったが

まずは、会談の場所がアラスカ州に決められた点である。米中会談前日の3月17日まで、ブリンケン国務長官は東アジアにいた。彼は16日に東京を訪問して日米「2プラス2」会談に出席した。翌日の17日には韓国のソウルへ行って同じような会談を行った。

中国側からすれば、本来、ブリンケン長官はソウルからそのまま北京へ飛んできて18日の米中会談をやればよかった。ソウルから北京は目の前にあり、移動の飛行時間はせいぜい2時間弱だからだ。しかしブリンケン国務長官は北京へ飛んでいこうとはしない。彼は一旦帰国の途につき、東アジアから帰国する際の経由地であるアラスカ州に立ち寄った。そして、中国の外交トップたちをそこに呼びつけてきて会談を行うのである。

中国側にとっては、アメリカ側の意向と都合にしたがってアラスカへ飛んでいって会談を行うこと自体まさに屈辱そのものであった。しかしそれでも、中国の外交のトップたちは恥を忍んで、アメリカ側との会談に赴くしかない。会談を通じて関係の改善を図りたいのは彼らの方だったからである。

中国側の屈辱感に追い討ちをかける出来事

そして、会談前日の17日にはまた、中国側の屈辱感に追い討ちをかけるような出来事があった。その日、米国務省は声明を発表し、中国当局者など24人が香港の選挙制度弱体化に関与していると指摘し、彼らへの制裁を示唆した。この24名の中には、習主席の側近で全人代副委員長の王晨も含まれている。

17日の米国務省声明が、翌日の米中会談を意識した行為だったかどう定かではないが、中国側からすればまさに侮辱的行為であって中国への嫌味でしかない。もちろんそれでも、中国側は翌日の米中会談をキャンセルするようなことはしない。彼らにとって、会談は実はそれほど重要なものであった。

同じ3月17日には、米ウォールストリート・ジャーナル紙の電子版が、中国側は会談で前政権が発動した各種の対中経済制裁の解除、中国共産党関係者や国営メディア記者らに対するビザ(査証)規制の見直しなどをアメリカ側に要求する見通しであると伝えた。どうやら中国の外交トップたちは会談の実現を米中関係改善の良いスタートにしたかっただけでなく、会談から具体的な成果までを勝ち取ろうと考えたのである。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、米雇用統計控え上値重

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story