コラム

米大統領選で流行る「チープフェイク」動画とは?【風刺画で読み解くアメリカ】

2024年07月04日(木)13時13分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
米大統領選, ジョー・バイデン, ドナルド・トランプ, ディープフェイク, AI

©2024 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<チープフェイク動画でバイデンのボケっぷりをやゆする保守メディア&トランプ陣営だが、トランプ本人もかなり危うい言い間違いや勘違いを連発している、と米出身芸人のパックンは指摘します>

僕が「芸能人になるぞ!」と親に宣言し、東京に出た数年後、テレビでの活躍を証明するビデオを実家に送った。そのとき、隣でツッコミを入れる相方マックンの姿を編集して、孤軍奮闘状態の自分だけを残した。切り取りに気付かない親は大喜び。印象操作、大成功!

最近、共和党や保守メディア、そしてトランプ陣営も似たような工夫を施してバイデン大統領の映像を大量に拡散している。


イタリアのG7サミットで首脳集団から離れ、1人で徘徊するバイデン。第2次大戦のノルマンディー上陸作戦から80年を記念する式典で、存在しない椅子に座ろうとするバイデン。同じイベントで、マクロン仏大統領が退役軍人と挨拶しているのに、ジル夫人とあっさり退場するバイデン。おい、ボケ老人!

と、見る人は思いがちだが、切り取っていないもともとの映像を見ると印象が変わる。サミットでバイデンは徘徊ではなく、空挺兵に挨拶しに行っている。式典では周囲のみんなと同様、座るタイミングに迷っているだけ。また、しっかり退役軍人に挨拶をしてから退場している。おい、ノーマル老人!

一方、民主党側もトランプの動画を武器に使っている。バイデンをオバマ元大統領と、ナンシー・ペロシ元下院議長をニッキー・ヘイリー元国連大使と、トルコのエルドアン大統領をハンガリーのオルバン首相と呼ぶなど、さまざまな人を全く別人の名前と混同するトランプ。一番ひどかったのは、トランプに受けた性暴力を告発した女性を元妻の名前で呼んだことだ。

加えて中国と北朝鮮を間違えたり、「ベネズエラ」と発音できなかったり。常にバイデンのボケっぷりを批判するトランプだが、民主党が広める動画を見ると、目くそが鼻くそを笑っているような印象を受ける。国民はちっとも笑えないけど。

AI(人工知能)ででっち上げた「ディープフェイク」と違い、簡単に切り取るだけの動画は最近cheap fake(チープフェイク)と呼ばれる。風刺画でトランプが叫んでいるcheap shot(チープショット)は狡猾な反則技を指す。しかし風刺画が指摘するとおり、トランプ関連の動画は切り取り抜きで本人の言葉をそのまま流しているものがほとんど。狡猾ではないけど、広めた民主党はきっと「こう勝つ」と思っていることだろう。

ポイント

THEY’RE EDITING VIDEOS TO MAKE ME LOOK CONFUSED AND UNFIT!
映像を編集して、私が大統領にふさわしくない混乱したヤツだと見せようとしている!

THEY’RE PLAYING UNEDITED VIDEOS OF THINGS I ACTUALLY SAID TO MAKE ME LOOK CONFUSED AND UNFIT!
私が実際に発言した映像を流して、私が大統領にふさわしくない混乱したヤツだと見せようとしている!

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story