コラム

銃乱射事件の容疑者が妄信した陰謀論、FOXニュースの人気司会者はトンズラ

2022年06月06日(月)16時02分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
陰謀論

©2022 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<FOXニュースの人気司会者が過去6年で400回も連呼してきた陰謀論を、ニューヨーク州バファローのスーパー銃乱射事件の容疑者が信奉。銃乱射の裏にでたらめ陰謀論あり>

大置換理論(Great Replacement Theory)って分かるかな? まあ、アメリカで最も人気の司会者、FOXニュースのタッカー・カールソン(Tucker Carlson)も5月17日にはっきりと「僕らもまだ把握していない」と言っていたから、知らなくても大丈夫だよ。

では、説明しよう。これはフランス発祥の極右陰謀論だが、アメリカでは「ユダヤ教徒やリベラル派が移民を大勢わが国に受け入れ、白人を追い出して権力を確保しようとしている!」という解釈が人気だ。

例えば「民主党が(現在の)有権者を、途上国からの従順な有権者と入れ替えようとしている」「わが国は外国から侵略されている」といった荒唐無稽な主張を......カールソンの番組でよく聞く。というか、全部彼本人の発言だ!

ニューヨーク・タイムズによると彼は2016年以降、こうした発言を400回もしている。ということは「分からない」のは考え方ではなく、正式名称のことかも? いや「政治用語でこれは大置換と呼ばれる。従来のアメリカ人を、遠くの国から来たもっと従順な人と入れ替える政策だ」と、カールソンは用語の説明まで番組中でしている。......分かってるじゃん!

では、カールソンはなぜ自分もよく説く、名称もきちんと把握している陰謀説を知らないふりをしたのか。それは5月14日、ニューヨーク州バファローのスーパーで10人が殺害された銃乱射事件の容疑者が、この説の信奉者だった可能性が明らかになったからだ。銃乱射の動機となるような陰謀論を広めていると、彼もさすがに思われたくないのだろう。

こうした関係性が問われたのは初めてではない。23人が死亡したテキサス州エルパソでの銃乱射事件の容疑者も、女性がひき殺されたバージニア州シャーロッツビルの集会での白人至上主義者たちも、似た主張をしていた。

でたらめで、危険な陰謀論。昔なら差別主義的な主張は顔を隠してやるものだったが、今は集会やテレビで彼らは顔も思想も隠そうとしない。カールソンも番組で「分からない」と言い張った直後にも同じ主張を繰り返した。

人を入れ替えさせる力を持つ人がいるなら、まずはこの人からお願いします。


ポイント

THE REAL "GREAT REPLACEMENT"
これが本当の「大置換」

REPLACING INCOGNITO RACISM...WITH MAINSTREAM RACISM
隠れた人種差別からの......大っぴらな人種差別への置換

THEY WILL NOT REPLACE US!
われわれは置き換えられたりしない!

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story