コラム

トランプがすがる「白人主婦」幻想へのノスタルジー(パックン)

2020年08月27日(木)18時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

A Suburban White Supremacy / ©2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<トランプが実現したいのは安定した家庭環境や好景気ではなく、近くに黒人を住まわせない差別的な住宅環境制度?>

ジューン・クリーバーは白黒テレビ時代にはやった米シットコム『ビーバーちゃん』に登場する主人公のお母さん。アメリカ「黄金時代」の郊外に住む典型的な白人家族の象徴だ。漫画ではトランプ大統領が自らの選挙スローガンをもじった言葉で、そんな白人専業主婦の偉大さを取り戻すとエプロンで主張している。

漫画のトランプ母さんは白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)の頭巾を模したクッキーを焼いている。「黄金時代」といっても、先進的な北部も含めて多くの街に黒人が住めない地区があった。ビーバーちゃんは心温まるファミリードラマではあるが、白人のみの「理想」を描いている。実際、公民権運動真っ最中の1957年から63年の間に放送された全234回中、黒人がしゃべったのは1回だけ。テレビは白黒でも、映っていた社会は白のみ。

トランプは最近、ビーバーちゃんを懐かしむような人へ猛アピールしている。しかし、安定した家庭環境や好景気などではなく、近くに黒人を住まわせない差別的な住宅環境制度を恋しく思っているようだ。先月、トランプは住宅の公平な提供を保障するべくオバマ政権下で実施された規制の廃止を決めた。「夢の郊外生活を生きる皆さんに喜んでお知らせします。あなた方は二度と近所の低所得者向け住宅による経済的損失や迷惑を受けなくなります。あなたの家の価格は上がり、犯罪は減る」とツイートし、規制撤廃を発表したのだ。

「低所得者」はアメリカのレトリックにおいて昔から黒人を指すtrope(比喩表現)としてよく用いられる。暗号を解読すると、トランプは「黒人が近くに住むのは迷惑で損。黒人は近所の価値を下げる犯罪者だ」と言っていると、批判の声が上がった。

もちろん、実際にそんな意味で言ったか、僕には分からない。昔、トランプは持ちビルの部屋を黒人に貸さなかったことで訴追されたこともあるし、差別的な意思があるのかもしれない。しかし、アフリカの諸国を「クソだめ国家」とさげすんだり、メキシコからの移民を「犯罪者」「レイプ犯」などと誹謗したりもしているから、差別的なことを言いたいときは暗号なんか使わないかもしれないね。

【ポイント】
TRUMP 2020: SAVING SUBURBAN HOUSEWIVES ONE TROPE AT A TIME...
トランプ2020:比喩表現で郊外の主婦を救う

MAKE JUNE CLEAVER GREAT AGAIN
ジューン・クリーバーの偉大さを再びポイント

WHO WANTS COOKIES?
クッキーはいかが?

<本誌2020年9月1日号掲載>

【関連記事】大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出
【関連記事】「OK」のサインは白人至上主義のシンボルになったので、一般の方はご注意下さい

【話題の記事】
12歳の少年が6歳の妹をレイプ「ゲームと同じにしたかった」
コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる
介護施設で寝たきりの女性を妊娠させた看護師の男を逮捕

20200901issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、トランプ氏の「今週合意」発言にコメントせず

ワールド

対米貿易協議は難航も、韓国大統領代行が指摘 24日

ビジネス

中国、国有企業に国際取引の元建て決済促す 元の国際

ワールド

ローマ教皇フランシスコ死去、88歳 初の中南米出身
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story