コラム

「中国の感謝祭」と卵チャーハンの謎すぎる関係

2023年12月14日(木)20時20分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
卵チャーハン

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<卵チャーハンの調理動画を公開しただけで中国のネット愛国者から猛攻撃され、謝罪に追い込まれた中国人インフルエンサー。11月下旬になると、中国当局が「卵チャーハン」に敏感になる理由>

「今日は中国の感謝祭なので、卵チャーハンを作ろう」 

毎年11月25日になると、中国語のX(旧ツイッター)上に決まってこのような投稿が現れる。

由来がある。1950年11月25日、毛沢東が最も信頼した長男・毛岸英(マオ・アンイン)は従軍していた朝鮮戦争で28歳の若さで戦死した。彼は卵チャーハンの調理中に立ち上った煙が米軍機に発見され、爆撃を受け死亡したという説がある。

毛岸英が死亡したその日はアメリカの感謝祭前後。なので、中国の自由・民主派、特に毛沢東独裁が大嫌いな人々は冗談交じりに11月25日を「中国の感謝祭」と命名し、感謝の気持ちで卵チャーハンを食べなければならないと揶揄する。卵チャーハンのおかげで、中国は北朝鮮のような世襲制の国になることを避けられた、と考えるからだ。

卵チャーハン戦死説はいつの間にか毛岸英の代名詞になった。ただあまりに不栄誉なので、中国政府はそれを全力で否定し、毛岸英は国のために犠牲となった革命の英雄だと主張。愛国者、特に毛沢東の崇拝者らに支持されている。

そのため、今年の11月27日に王剛(ワン・カン)という人気グルメブロガー・料理人が「おいしい卵チャーハンの作り方」という動画を投稿すると、ネットで激しい批判が巻き起こった。毛岸英の命日に近い日を選んで卵チャーハン動画を投稿したことに愛国的なネットユーザーは憤慨し、「英雄侮辱罪ではないか、告発しろ」と王を威嚇。恐れた王はその投稿をネットから削除して、公開謝罪した。

とんでもない話だ。「人生で数え切れないほど卵チャーハンを食べたが、僕も英雄侮辱罪か」「中華料理から卵チャーハンを除名したほうが良い」。そんな投稿もあったが、愛国者たちの声にかき消された。そして、今の中国SNS上で「卵チャーハン」は習近平を指す「クマのプーさん」同様、政府と愛国者が反応する「敏感詞」になった。

笑える話、というより悲しい話だ。毛岸英の死亡は確かに中国を世襲制から救った。しかし中国人が伝統的な帝王崇拝思想や洗脳から脱却できなければ、永遠に「非世襲的な独裁統治」は続き、「敏感詞」の列が長くなるだけだ。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story