コラム

上海の分別強制スタートで始まった、中国「ごみ分別大戦争」

2019年07月27日(土)13時50分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China's Garbage Wars / (c) 2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<行政当局は6月末、上海のごみ分別制度を強制的に開始し、市民生活は大混乱に陥っている>

夏に入ると、中国人の最大の関心事は米中貿易戦争ではなく、ごみ分別戦争になった。政府は6月25日、ごみ分別制度についての法律の草案を全人代常務委員会に提出し、今月1日には上海をモデルケースとして強制的にスタートさせた。

空から舞い降りてきたこの法律は、ごみの分別経験がほとんどない上海市民にとってまるで嵐だ。生活は大混乱になり、ネット上でも朝から晩までごみ分別の話題ばかり。リサイクルごみと有害ごみの分別はまだ分かりやすいが、湿ったごみと乾いたごみの区別は分かりづらい。どちらも骨なのに、ニワトリの骨やカモの骨は湿ったごみで、豚骨や牛骨は乾いたごみになる。

ごみ捨て場での分別の検査も厳しくて、分別していなかったり、分別が間違いだったら罰金を取られる。これが慣れない市民の不興を買ってけんかもたびたび起きている。ごみ分別検査を当番するおばさんが市民に殴られて失神する事件も発生した。「戦争」そのものだ。

なぜ中国政府はこんなに急ぐのか。40年近い経済発展で、今の中国はお金と同時に大量のごみもつくり出した。生活ごみだけで年間4億トン前後。しかも毎年8%ずつ増える。未分別ごみの焼却処分で発生した二酸化炭素や有害物質が生活環境の悪化を招き、人々に健康被害をもたらしている。

言論の自由がない社会だが、みんな健康に関わる環境問題には黙っていられない。6月末に武漢で起きたごみ焼却施設反対デモを含め、この十数年間に中国で起きた大規模デモはほとんど環境問題と関わっている。強権に対して辛抱強い中国民衆もごみ問題には我慢できない。人民日報に「ごみ分別戦争が寸前に迫っている」という論説が出たのはそのためだ。

強制的なごみ分別はこれから全国各地に広がる。ある地方政府はごみ分別を確実に管理するため、家庭別に異なるQRコード付きのごみ袋利用も義務付ける。

中国の新たなごみ分別は確かに世界でも一歩進んでいるが、そのやり方は嵐のように暴力的だ。中国には公権力行使を抑止する機能が全くないので、強制的に普及させたごみ分別制度は、また新たな汚職の温床になるだろう。

【ポイント】
你是什么垃圾?

「あなたは何ごみ?」。住民がごみ捨て場で当番の女性に聞かれたこの言葉が、たちまち上海市民の間で自嘲めいた流行語に。「可回收物」「有害垃圾」はそれぞれ「リサイクル物」「有害ごみ」。

武漢のデモ
湖北省武漢市で6月末、立地場所などの理由でごみ焼却施設建設に反対するデモ隊が警官隊と衝突。市民を殴打する警察への非難がネットで広がった。

<本誌2019年7月30日号掲載>

20190730issue_cover200.jpg
※7月30日号(7月23日発売)は、「ファクトチェック文在寅」特集。日本が大嫌い? 学生運動上がりの頭でっかち? 日本に強硬な韓国世論が頼り? 日本と対峙して韓国経済を窮地に追い込むリベラル派大統領の知られざる経歴と思考回路に迫ります。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story