コラム

夫婦の子づくりを中国共産党が振り回す

2018年06月07日(木)19時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

<中国の悪名高い「一人っ子政策」は2015年末に「二人っ子政策」へと転換されたが、その後も若い世代は出産に対して消極的>

先日、米ブルームバーグが公表した「中国が年内に産児制限による計画出産政策の完全撤廃を検討」という記事が中国のネット上で爆発的な話題となっている。本当なのか! ネットユーザーたちはびっくりし、そして疑問を抱いている。

今の中国は13億人を超える人口大国だが、1949年に新中国が成立した当時は5億4000万人だった。毛沢東の「いずれ人口は武器になる」という考え方によって、冷戦時代に人口は国家戦略と位置付けられ、50~60年代には子供をたくさん産んだ女性が「英雄母親」として政府から表彰された。

「英雄母親」のおかげで、80年代初めに中国の人口は10億人を超えた。しかし平和な時代において、有限な社会・環境資源を消費する膨大な人口は政府にとって頭痛の種。そのため82年の年末、70年代末期から既に推進されていた「計画生育」といわれる政策が基本国策となり、一人っ子政策が本格的にスタートした。

「人が多いほど良い」方針から「一人っ子だけが良い」方針に転換し、1人だけ出産する女性を「模範母親」と呼ぶ。昔のようにたくさん出産する女性は「英雄母親」どころか、国策違反の「超生母親(生み過ぎの母親)」とよばれ、罰金あるいは堕胎を強制された。

40年間近く続いた一人っ子政策の成果は大きい。専門家は、もし計画生育政策がなかったら、今の中国の人口は16億人近くになっていただろうという。ただ、副作用もだんだん表れてきた。男女比率のバランスが崩れたほか、特に高齢化も深刻化している。

62~70年の中国の出生率は人口1000人当たり平均36.8だったが、2017年は12.43。これは15年の12.07とあまり変わらない。15年末に、一人っ子政策が二人っ子政策に転換されたが、「産みたくない」「負担が大きい」などの理由で若い世代の出産に対する態度はやや冷たいらしい。

だが、社会が高齢化するほど政府の負担は大きくなる。そして、今の「風雲突変」な国際情勢をみると、「人口は武器になる」という考えによって、いつの間にかたくさん出産する女性がまた「英雄母親」視され、政府から表彰を受ける時代が再び到来するかもしれない。人民はいつも権力者に翻弄されているのだ。

【ポイント】
还不快去造小孩!/多生优生报效祖国

急いで子供をつくれ!/優秀な子供をたくさん産んで、祖国に報いよう

出生率
人口1000人に対する1年間の出生数の比率。15年の日本の出生率は8.0

<本誌2018年6月12日号掲載>


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オラクル9-11月決算、注目指標が予想に届かず 時

ビジネス

ブラジル中銀、4会合連続で金利据え置き タカ派姿勢

ビジネス

米財政赤字、11月は前年比53%縮小 輸入関税が歳

ビジネス

米金利先物市場、1月据え置き観測高まる 26年に利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story